121、検証する弥勒。
遅くなりました!
「ほう、つまり何かを考えながらの会話なら、ミロクの周りで人がバタバタ倒れないっつー事か。良かったな」
「バタバタって……まだ分からないですよ。ヨイチさんが協力してくれる人を連れてくるそうなんで、そこで検証してみようってなったんです」
「どんだけ暇なんだよ」
「二日酔いで午前中寝てたシジュさんには言われたくないです」
「今日の俺の仕事は昼の打ち合わせだけだったろ?」
「不潔です」
「いや、男友達とだぞ?」
いつになくツンツンしているミロクの頭に、シジュは「しょうがねぇな」と言って手をポンと置く。
「今度はお前も連れてってやっから、いじけるなよ」
「いじけてません!」
その白い肌をピンクに染めながらシジュに言い返すミロク。なんだかんだといつも子供扱いしてくる。
(シジュさんめ……でも、こういう所に女の人は惹かれるんだろうな)
何となく世の中の不公平を感じるミロクであった。
午前中は雑誌の撮影に出ていたミロクは、午後から打ち合わせだと聞いていた。しかしヨイチは女性スタッフと普通に接することが出来たミロクの変化に「仕事の幅が広がる!」と叫んで会議室から出て行ってしまったのだ。
ミロクはその後に来たシジュに事情を話しつつ、フミにお茶を用意してもらい優雅なティータイムを楽しむことにする。社長であり344のリーダー的存在のヨイチが不在では、打ち合わせは始められない。
二日酔いの抜けきらない頭を冷やすように、シジュは持っているグラスを額に当てている様が、妙に色気を出している。フミが気を使ってお茶ではなく冷たい水をグラスに入れて出したのだ。
ちなみにミロクはフミに買ってきたオリジナルのブレンドティーをホットで出してもらっている。オレンジの皮が入っていて柑橘系の香りがする緑茶ベースのお茶だ。
ヨイチのデスク側に座る気怠げなシジュも、その隣で温かいお茶を笑顔で飲むミロクも、美形二人がそこに居るだけで絵になる光景である。
事務所スタッフのため息が方々から聞こえていた。
「ただいまー」
「「おかえりー」」
「家か!!」
暢気なヨイチの声に、ミロクとシジュも暢気に返す。それをつっこんだのは長身のヨイチに隠れるように立っていた、フミの親友である真紀であった。
「あ、真紀ちゃん、久しぶりだね」
「王子久しぶり!フミとの仲は進んだ?」
「進めていいの?」
「ちょっと!何言ってるの真紀!」
ミロクと真紀の応酬にフミは慌てて止めに入る。その顔が真っ赤なのはご愛嬌だ。
「ヨイチさん、真紀ちゃんさんじゃ俺が相手にどう思われるかって検証出来ない気がしますけど……」
「うん。ちょうど真紀ちゃんが良い話を持ってきたんだよ」
ヨイチはニッコリと微笑み、その笑みにミロクとシジュは何となく嫌な予感がした。
「お姉ちゃん! 助けて!」
「どうしたの?」
「断られちゃったの! 来週なのに!」
「だから何を断られたの?」
真紀の妹の美貴は高校二年生。年の離れた妹を可愛がっている真紀のだが、彼女の唐突な物言いは直さなきゃいけないなと思いつつも辛抱強く聞く。
「文化祭にうちの高校の卒業生が来てくれることになっていたの。よくドラマとかに出ているムナカタリョーなんだけど……」
「それって、めちゃめちゃ有名人じゃない。本当に高校の文化祭に出るの?」
「だから、それが断られちゃって……」
しょんぼりとする美貴の頭を真紀は撫でてやる。妹の美貴は、バカではないがお人好しだ。今回もきっと誰かに泣きつかれて引き受けるも、どうしようもなくなってしまったのだろう。
それに……
「そもそも、よくそんな有名人とやり取り出来るツテがあったね」
「うん。文化祭実行委員の友達が交渉したらしいんだけど、手紙を送ってOKもらったって言ってたの」
「ふむふむ」
「で、OKだと思ってたけど、そうじゃなかったらしいの」
「ふむ? どういうこと?」
「手紙を送って、返事は無かったんだって。それで友達は『沈黙は肯定とみなす!』って思ったからOKだと思ったって……」
「実行委員の人選に異議あり!!」
「変わった子なんだよね。悪い子じゃないんだけど。……それで、お姉ちゃんがモデルさんに知り合いがいるって言ってたのを思い出して」
「あー……なるほどね。正確にはアイドルなんだけど」
「アイドル!? シャイニーズみたいな!?」
「違うって。まぁ彼らとは知り合いだけどコネは無いよ。とりあえずダメ元で話してはみる。それでいい?」
「いいよ! お姉ちゃんありがとう!」
「まだ受けてもらえるか分からないからね?」
「うん。分かってる。私バカじゃないし」
さっきまで涙ぐんでいたのが嘘のような明るい笑顔に、少し複雑な気持ちになる。もしや妹は小悪魔予備軍なのであろうか。姉の真紀は何やら先行きが心配になってくる。
それでも可愛い妹のために、早速真紀は如月事務所宛に電話をかけ、運良くヨイチと直接話すことになった。
「と、いうわけなんだよ」
「そうですか。つまりそこで俺が上手く切り抜けられるか検証するということですね」
降って湧いた話ではあるが、ミロクが自分の能力?をコントロール出来るかどうかの検証にはもってこいの仕事であった。
そして344(ミヨシ)のファン層は、高校生が少ない。ミロクを知っている人が少ないというのも、検証するには良い状態である。
「あと今回は話も話だし、多少こちらの要望も聞いてもらえると思ってね」
「オッサン、黒いな」
「黒くなきゃ社長なんてやってられないでしょ」
「ま、確かにな」
「で、どうするミロク君。休みが一日潰れちゃうけど」
「もちろん、喜んで文化祭にお呼ばれしますよ。それに少しでも未来ある高校生の一助になれるなら嬉しいことだと思いますから」
笑顔で言うミロクに、ヨイチは黒い笑顔を引っ込めて柔らかな表情になる。
誰かの助けになるなら、それが優先だと答えるミロクこそ本当の彼の魅力なのだと、その場にいる全員が感じたことであった。
真紀は深くお辞儀をして感謝を述べると、妹の美貴に即行で連絡をとり、高校の代表者との打ち合わせの日をサクサク決めていった。
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