120、新たなる力を得る弥勒。
ちょっと落ち着きます。
会議室にて、オッサンアイドル344(ミヨシ)のマネージャーであるフミは、社長であり叔父であるヨイチとスケジュールの調整をしていた。アイドルという職業は歌を出せば音楽番組は勿論、バラエティー番組、ドラマ、映画など幅広く露出することが大事だ。可能な限り、彼らを世間に認知させ『オッサンアイドル』という新たなジャンルを確立させようと、二人は日々スケジュール管理について打ち合わせをし、ミロク達を売り出す事に余念がない。
以前出演した『秀才!タムラ動物パラダイス』では高視聴率をマークしたものの、動物よりもミロク達の色気に視聴者の目がいってしまい、準レギュラーの座は危ぶまれていた。しかし「それはそれでいいじゃないか!」というプロデューサーと、提供している344出演CMの化粧品会社からの要望もあり、月一回のペースで出演することとなった。ロケ中心だが動物好きのミロクはとても喜んだ。
モデル業も順調だ。男性雑誌を出す二社と来年から年間契約がとれた。
アニメ『ミクロットΩ』も早々に二期が決まり、制作側の愛が存分に詰まった『ミクロットΩ王国編』が来年夏より放送されるらしい。主人公達の人気よりも敵役の人気が高いとのことで、彼らの故郷が舞台となるらしい。主人公の一人、メロン役である大倉弥生には申し訳ないなとヨイチは考えていた。
「そういえば、大倉さんは尾根江プロデューサーの血縁者ってことだったよね」
「はい。でも本家ではないから、血は濃くないから誤解しないでって言ってました。誤解って何ですかね?」
「さぁ、何だろうね」
ヨイチはフミの言葉に乾いた笑いを浮かべる。弥生もフミに深くは知られたくないだろうと、ヨイチは多くを語らず曖昧に返事をした。
その時、会議室のドアを大きくノックされる。
「どうぞ」
「失礼します!」
慌てたような事務所の女性スタッフの様子に、ヨイチとフミは何事かと驚く。
「あの、ミロクさんなんですけど!」
「ミロク君? もしかしてまた誰か鼻血出して倒れた?」
「いいえ、あの、さっきまで私がミロクさんと話していたんです!」
「「ええ!?」」
大きい声を出して驚くヨイチとフミ。
この女性スタッフは度々ミロクのフェロモンにあてられて、仕事にならなくなることが多い。彼女はミロクがいる時は、違う場所で作業したりあまり近くにいないようにしていたのだ。
そして、その事をミロクは知らない。しかし知らないながらも、ミロクは自分の出す色気があるから女性に近づきすぎないように気をつけていたりする。
雑誌の撮影を終えたミロクが帰ってきた時にヨイチとシジュが不在だった為、この女性スタッフに話しかけたようだ。
「ミロクさんの、いつもの殺人級な色気が半分くらいの感じでした。多少の動悸息切れはしますけど、普通の会話が出来たんです」
「それは、ミロク君のフェロモンが少なくなったのかな?」
「どうでしょう……あ、話す前に少し考え事をしていた感じでした」
「考え事?」
フミはポワポワな髪を揺らし、こてんと首を傾げた。
「というわけだよ。ミロク君」
「そうですかヨイチさん。さっぱり分からないんですけど」
早速検証してみようとヨイチは打ち合わせを中断し、ミロクのいるデスクに戻る。
「女性スタッフと普通に話していたって聞いたよ。すごいよミロク君!」
「そりゃ普通に話しますよ!……ん? そういえば今日は俺と話した女性が、赤くなってどこかに行ったりしていないかも」
「それだよミロク君。何故いつもと違うのかな?」
「いつもと違う理由かは分かりませんけど、実は昨日読んでいたラノベの内容が、色々考えさせられるものがあって」
「ラノベ? その小説が原因?」
「原因というか、今日は一日その小説の事を考えてたような気がします。撮影の時は集中しましたけど、それ以外ではどこかでずっと考えていた……かも?」
「まさか、まさかミロク君は並列思考のスキルを!?」
「ヨイチさん、ラノベの読み過ぎですよ」
あははと明るく笑うミロクは「お前が言うな」のツッコミを待っていたが、ヨイチはまったく笑っていない。真剣な表情で考え込んでいる。そんなヨイチの様子にミロクは何やら落ち着かなくなってくる。
「何かに気を取られていて、集中していないとフェロモンは出ない?……コントロール、出来るか?」
「あの、ヨイチさん? 大丈夫ですか?」
「ミロク君! これならもっと仕事の幅が広がるよ!」
「ええ!?」
顔を紅潮させ興奮しているヨイチに、ミロクは何が良い事なのかサッパリ分かっていない。はしゃぐオッサンの後ろで、中々戻ってこないヨイチを呼びにフミがこっちに向かってきた。自然と笑み崩れるミロク。その様子にヨイチは固まる。
「フミちゃん! 打ち合わせお疲れ様だったね。お茶にしない? 俺、美味しい茶葉を近くの喫茶店で教えてもらって買ってきたんだよ」
「ふぇ、あ、はい、ありがとうござりましゅ!」
心の準備の無い状態でミロクの満面の笑みを受け、顔を真っ赤にしたフミは思わず噛んでしまう。そんな二人の様子にヨイチはガックリする。
「おさまった訳じゃないのかぁ、フェロモンは……」
「でも、さっきまでと全然違いますよ」
「そりゃ、フミ相手だからねぇ」
「ですよねぇ。ということは、私達のような一般人ならある程度大丈夫かもしれませんね」
「まだまだ検証が必要か」
ヨイチはミロクの新たなる力を確実なものにするため、いくつか連絡をとることにした。
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