111、ワルツのお披露目。
歌詞が……
ウッドベースにストリングスが乗る。流れる曲は三拍子のワルツ。
燕尾服で身を包んだ三人のうち、真ん中にいるミロクは一人スタンドマイクに腕を絡める。
両側にいるヨイチとシジュは、仮面をつけた白いドレスの女性をパートナーとして、ワルツの曲に合わせて踊り始めた。
パートナーのいないミロクは、スタンドマイクを片手に一人で踊る。
甘く響くテノールで歌い出したミロクは、少し悲しげに目を伏せてみせた。
花ひらくように、咲いていくドレスを
ただ虚ろに、見るだけの日々
続くワルツは、単調に回る
同じ音、同じメロディ、変わることはない
貴方の手をとることを
ずっと求めているのに
黒をまとう貴方は
闇の中では見えない
ヨイチのターンで、女性は柔らかく身体を反らすと、その間をシジュはゆったりと女性をリードしてターンをする。
数組のバックダンサー達は男女共に仮面をつけて、一斉にくるりと回った。
ミロクは、周りに合わせて体を揺らし、再びよく響く声で歌い出す。
移り変わる世界に、散っていく花達を
泣くことなく、見るだけの日々
続くワルツは、ひたすらに回る
同じ音、同じメロディ、変わったのは貴方
ドレスを脱いだ私を
求める人はいないけど
待つ私にドレスはいらない
貴方の手があればいい
続くワルツは、回っていくだけ
同じ音、同じメロディ、始めたのは貴方
繰り返す、同じメロディ、終わらないワルツ
「もうやらないからね! 明日絶対筋肉痛だわ!」
「姉さん、最近ジム行くのサボっているでしょ」
撮影が終わると、さっさと椅子に座って仮面をとる姉のミハチに、ミロクは思わずツッコミを入れる。ちなみにミロクは頑張っているものの、なかなかオッサン二人の体力に追いつかない。
「ミロクのCMが好評すぎて、商品の売り上げ好調、おかげさまで残業過多なのよ!」
「それは良いことじゃないの?」
「残業多いと、ジムで体動かすのがキツイのよー」
「僕も最近行けてないなぁ。爆発的に忙しくなったからねぇ」
さり気なくミハチの隣をキープするヨイチは息ひとつ乱していない。後から来たシジュも同様だ。
今回ミロクは歌メインであり、歌は録音したものを流していたので疲れてはいない。それでも女性と踊る二人をみて、ミロクは少し羨ましかった。
「俺もフミちゃんと踊りたかったなぁ……」
「フミは踊れないよ。そして壊滅的に不器用だよ」
「え、そうなんですか? ヨイチさんもヨミさんもダンス上手なのに?」
「義姉さんに似たんだろうね」
苦笑するヨイチの後ろで、それまで黙っていたシジュが口を開く。
「なんか悪かったな。俺のせいで……」
「ああ、もうそれ聞き飽きましたよ。姉さんもニナも、久しぶりに踊れたし良かったと思いますよ。ねぇニナ」
「うん。良い練習になった」
「つか、何で大崎家は社交ダンス習得が必須なんだよ?」
「まぁ、家風みたいなものですよ。習い事もそうでしたしね」
「……腑に落ちねぇ」
「あはは」
「笑ってごまかすな!」
そんな掛け合いに皆は笑顔になる。不貞腐れたような顔をしていたシジュも、しょうがねぇなと笑顔になった。
「それにしても、眼福だわぁ……」
ミハチがうっとりした顔で吐息交じりに言う。バックダンサーの人達もこくこく頷いている。
「何が?」
首を傾げる美丈夫の三人。
ミロクはカチッとした燕尾服に、髪は絡めず緩やかに後ろに流す程度だ。今回女性目線の歌詞である為、ミロクは中性的に見えるようメイクもしている。どちらでもいける感じの妖しげな色香がすごい。
ヨイチはアッシュグレーの髪を丁寧に撫でつけており、モノクル(片眼鏡)をかけて「お嬢様」と言えば美形のやり手執事の出来上がりだろう。
シジュは先程の美しいダンススタイルとはうって変わって、タイも緩めてセットした髪も乱れている。舞踏会の合間に女性と逢引きしたかのような、情事の途中のような色気が出ていた。色々あって少し疲れている感じが、その色気に拍車をかけているようだ。
ミハチはスマホで撮影しまくり速攻どこかにメールを送っている。
「SNSには上げないでね」
「分かってるわよ。ここに居ないフミちゃんにだから」
「だと思ったけど、一応ね」
ドレス姿のミハチと撮影してご満悦なヨイチだが、さすがに仕事は忘れていない。
「あれ? ニナは?」
「着替えるって言ってたな」
「な!! まだ大崎家オンリーの写真撮ってないのに……母さんに殺される……行くわよミロク!!」
「はいはい」
慌てて走っていく姉に、苦笑した弟のミロクは後を追って行った。
「ミロクの姉さん、まだまだ元気なんじゃねぇか?」
「ふふ、そこが可愛いよね」
「はいはい。ハゼロハゼロ」
「……今回頑張ったのに」
「これは俺だけの声じゃねぇからな」
シジュの言葉に、後ろにいたバックダンサー達が「その通り」とばかりに、首を思いっきり縦に振っていたのだった。
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……精進します。m(_ _)m