13、遊びも本気でやる三人。
ミロク、ヨイチ、シジュの三人は、ダンスのカリキュラムがある日に合わせて集まるようになった。
仲良くなった理由は色々あるが、ここのスポーツジムには男性会員が多く、その中でも三人は高齢側(笑)であるのと、話している内に気が合ったというのがある。
ダラけているようで意外と根が真面目なシジュは、ダンスについて色々勉強しながら実践していくミロクの姿勢に好感を持った。
動画の動きは悪くなかったから、あとは基礎体力や筋肉のつけ方に気を付けつつ、ダンスのテクニックを磨いてやろうと考えている。
「やるからには完璧を目指す。ヨイチのおっさんはプロテイン禁止な。ガチムチだと振りを合わせた時に綺麗に見えねぇし」
「そ、そんな……!!」
「頑張りましょうヨイチさん、俺なんか一コマのコンバットダンスがやっとの体力しかないから、地獄の体力作りメニューが……うぐ……」
シジュはクセのある髪をまとめ直し、まるで日本の夜明けが来たかのような仁王立ちで二人を見下ろす。
「発表会は一ヶ月後!振り付けはオリジナルで、小道具を使うこととある!小道具を使って動きが甘くなるとか許されないからな!とにかく動きを叩き込め!」
ここのスポーツジムでは、定期的にダンスの発表会を行っている。
今まではミロクもヨイチも出ていなかったが、暇を持て余したシジュが「やろうぜ」と言い出した。
難色を示したミロクには「アニソンで踊るぞ」と言って陥落させ、ヨイチはミロクが上目遣いでお願いしたらあっさり了解した。後からシジュも「あれはヤバかった」と言わしめた上目遣い。ミロク本人には何がヤバイのかは分かっていないし、詳細を聞いてもおっさん二人は堅く口を閉ざしていた。
「振り付けはシジュが考えてくれるのかい?」
「時間があれば三人で考えてぇけど、ミロクもおっさんも忙しいだろ?」
「元ダンサーのシジュさんなら文句ないですよ」
「ま、結局ホストになっちまったけどな」
「それもすごいと思いますよ」
ミロクは素直に感心していた。自分には絶対無理だと思う仕事だからだ。しかもフワフワ適当にやってるように見えて細やかな気配りが出来て、人気はいつも真ん中あたりでそれなりに稼げていたシジュは、異色のホストであったと言ってもいい。
「シジュは器用だからなぁ。あ、そうだ。うちの事務所でバイトしてくれない?事務が足りなくてさ。フミはミロク君についてなきゃだし」
「しょうがねぇな、おっさんのプロテイン禁止と追加で筋トレ禁止な」
「うぐぐ……」
「あと、インストラクターに了解とったけど、ミロクは体力の事もあって振り付け少なめにする代わりに、歌ってもらうから」
「ええ!?それって結局キツいやつじゃないですか!しかも月刊なオープニングの歌は難しいですよ!?」
「頑張れ!」
「「鬼!!」」
今日はモデルの仕事もなく、家族一緒に夕食を囲む。
珍しくミハチは家にいて、風呂上がりの濡れた長い髪をそのままにタオルを巻き、アラブ人のような姿で肉じゃがを頬張っている。すると何かを思い出したのか、にやにやしながらミロクを見た。
「姉さん何?せっかくの美形が台無しだよ?」
「うるさいイケメン。聞いたわよ、ジムのダンス発表会に出るって、うひひ」
「え!?お兄ちゃんの発表会!?」
「ブラコンのニナには申し訳ないけど、土曜日だから無理よ」
「ブラコンじゃない!!」
ミロクは苦笑しながら、頬を真っ赤にして怒るニナの頭を撫でる。静かになった。残念ながらニナのブラコンは確定だ。
「お母さんも見に行きたいわ!それってビデオとかに撮ってくれないの?」
「一応ジム側で撮影するみたい。記録として撮っておくけど外部には出さないって言ってたよ。家族の出番だけなら撮影出来ると思うけど……」
「父さんも多分仕事だから、ミロクの出番だけでも撮っといてもらえないか?」
「交渉しとくから大丈夫よ、ニナも機嫌直ったし良かった良かった」
「良くない!!」
そんな家族の様子を見て、気恥ずかしいけど頑張ろうと思った。
シジュさんとヨイチさんの足を引っ張るわけにはいかない。とりあえず明日は午後から仕事だから、早起きしてカラオケに行こうと決意するミロクであった。
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