105、アキバな弥勒。
お約束?
「実は、初めて来ました」
「ミロク氏はネット通販が主だったからねぇ」
とある人々にとって聖地と名高い秋葉原に、ミロクはサイバーチームの一人である白井と二人で来ていた。
例の『ミロクのだだ漏れフェロモンは服装で何とか出来るのでは?』という案からいってみようと、サイバーチームの中でも付き合いの長い白井が付き添う事になったのだ。
「ところで、その時チームの会議に俺は居なかったんだけど、なんでミロク氏は色気を抑えたいの? アイドルにとっては良い事なんでしょ?」
「うーん……俺も自覚ないんですよ。でも流石にプライベートもってなると……」
「ああ、確かにね。今もすごい見られているしね」
「え? 帽子とメガネしてますけど」
「服装と体型で色々アウトだね」
「そんなぁ……」
ガックリと項垂れるミロクを、白井は苦笑して見る。
サイバーチーム内での通称「外交」を担当している白井は、パッと見オタクには見えない。かなり重度のオタクなのだが彼自身が色々な人間に接するのが好きなので、話題も豊富でコミュニケーション能力に長けている為、堂々とアニメネタを話していたとしてもオタクだと思われない特殊な人種だ。
ちなみに、彼はミロクが隣に居なければ一見爽やかな好青年で、モテない訳ではない。
「まぁ、ここは一見『リア充』に見えるミロク氏に寄り付かない人種も多いし、大丈夫だと思うよ。まずは服装から変えてみようか」
「よろしくお願いします!」
「……で、なんでこうなったんですかね」
「うーん。まず、服変えようとしてミロク君が『自ら進んで』コスプレショップに入ったのが間違いだったかな?」
「一度入ってみたかったんですよ」
「その気持ちは分かるけどね」
今ミロク達は大きな書店の、医学書などの専門書ブースに汗だくになって座り込んでいた。ここにはほとんど客が居ないということで白井が案内したのだ。
なぜ二人とも汗だくなのか……それはコスプレショップに意気揚々と入ったミロクが、『ミクロットΩ』の衣装を見て大興奮し、ノリノリで『王子』のコスプレをした結果、多くのアイドルとアニメ双方のファンから追いかけられ、なんとかここに逃げ込んで来たのだ。
「いや、本物そっくりだったんですよ。すごくクオリティの高いお店でした」
「それは良いけど、さっきのミロク君がSNSで拡散されてるっぽいよ。しばらくここから出られないと思うよ」
「うう、すみません……」
「いやぁ、なんか王子版ローマの休日みたいで面白いからいいけど……あ、ちょっと待って」
白井はスマホでなにやら操作をすると、しばらくして店内のバックヤードと思われる所から店員が出てきた。
「何やってんだお前は」
「や、久しぶり!」
どうやら白井の知り合いらしき男性は、不機嫌な顔をそのままミロクに向けてきた。最近そういう感情を向けられてなかったミロクは少し戸惑うも、白井の知り合いなら悪い人間ではなかろうと笑顔を向けて会釈する。
「んぐ、おい、こいつ……」
「そうだよ。『白い王子様』だよ」
「マジか、何連れてきてんだよ」
「まぁ良いじゃない。頼むよギルマス。裏から俺たち出してくれない?」
「……もうギルマスじゃねぇだろ」
「ええ!? ギルマスさん!? あのギルマスさん!?」
ミロクは思わず大声を上げる。
引きこもっていた時期にミロクはネット内で人と交流していた。その方法はネットゲーム内での『ギルド』というグループに入り、トークルームで会話するというものだった。
『ギルマス』というのは『ギルドマスター』の略称であり、そのグループのリーダーに付けられる称号であった。
書店の店員らしき男は不機嫌そうな顔のまま、少し気まずそうに目を逸らす。
「まぁ、なんだ、リアルじゃ初だな。36氏。とりあえず裏口から出られるように案内する」
「なんかすみません……」
「それは俺も……いや、何でもない。行くぞ」
歩き出す彼のネームプレートには『理学・医学・建築担当』と印字されている。さすがギルマスだと変な所でミロクは感心している。白井はそれを面白そうに見ていた。
Tシャツの上にネルシャツ羽織り、ジーンズにスニーカーでリュックを背負うミロク。帽子とメガネはそのままだ。
書店の裏口を使わせてもらい、裏道を駆使して向かった古着屋にてミロクは『オタクファッション』に身を包んでいた。
「うん。普通にアウトドアな日のイケメンだね。格好良いよ」
「いや、それ、ダメなやつですよね」
落ち込むミロクに、白井はそれならと提案する。
先程とは違うコスプレショップへ向かう白井。ミロクは着ている服をそのまま購入し、一縷の希望を持って彼について行った。
白井さんのフルネームは白井拓真さんです。
ギルマスさんは外に出れたようです。
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