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84、サードシングル発売イベント前の緊張。

ガクブル。

(うう……緊張する……)


元々白い肌を緊張からさらに白くさせているミロクは、舞台袖で一人震えていた。




今日行われるアラフォーアイドルユニット344(ミヨシ)のサードシングル発売イベントは、事前の宣伝とネットの口コミから、結構な人数が見込まれていた。

ファーストシングルが一時期オリコン上位入りしていたのも、朝の番組に出たのも効いていると思われる。武藤に気に入られた344は、あれからもう一度ゲストで呼ばれていたのだ。


会場はショッピングモールで行う予定だったが、プロデューサーの尾根江によって、有名アーティスト達がよくやる『ゲリラ的にライブ』をする渋谷の一角に変更となった。

その事がさらにミロクにプレッシャーを与えている。


近くにいるシジュはイヤホンで音楽を聴き、全く緊張した様子はない。人前に立つことに抵抗のない、というよりも場数が違うのだろうとミロクは感心する。さすが伝説のダンスチームを……と、そこまで考えるとシジュから鋭い視線を感じる。あの事を考えただけで殺気を放つとは、どれだけシジュにとって黒歴史なのかと生命の危機を感じて思考を強制終了する。

ならばとヨイチの方を見ると、真っ青な顔でカタカタ震える、自分の所属する事務所の社長がいらっしゃった。


「……ヨイチさん?」


「な、な、なんだい?」


「なんでメンバーの中で最も芸歴の長いヨイチさんが、俺より怯えてるんですか……」


「いやぁ、さ、さすがに兄さんが客席で見てると思うとね」


青い顔のまま笑顔を見せるヨイチだが、普段のキラキラの半分以下の光量になってしまっている。そこにフミが飲み物を持って走ってきた。転びそうになるも耐えるフミ。彼女の成長(?)が窺える。


「叔父さん、お父さんが『みせてくれ』だって!」


ペットボトルの水を渡しながら言ったフミの言葉に、ハッと顔を上げるヨイチ。





アイドルになりたかったのはヨイチだった。客を虜にして、見せる、魅せるパフォーマンスをしたいと、アイドルの頂点を目指していた。

しかし、あの時代のアイドル活動は激務で、誰もが体か心を壊しているのが普通だった。

ヨイチは目指すものがあったが、ヨミは違った。ただ弟の夢を叶えてやりたかった。

歯を食いしばり、自分を曲げてまで弟のため必死にアイドルを演じていた。

そして、彼は倒れる。


『すまんヨイチ』


伝説と呼ばれた、全国ライヴ公演を終えた直後に倒れた兄は、白く、細く、今にも消えそうに見えた。

兄だけではない。ヨイチも体調が万全なわけではなく、自分の体を騙し騙しやってきていた。それも限界に近いと思っていた。兄が倒れなくても、近いうちに自分が倒れていたに違いない。


こんなのおかしい。

自分なら、もっとうまく仕事を回す。

タレントを犠牲にして売り上げを増やしたって、最終的に客もファンも離れてしまう。


変えてやる。





「そうやって理想を盛り込んだのが如月事務所なんだよね。事務所の立ち上げは兄さんに反対されて、僕はつい『理想をみせてやる!』なんて大きく出ちゃったから、今回それをみせなきゃって思うと、プレッシャーが……」


「叔父さん……」


「おいおいオッサン、やっと俺の美声でハモれるっつーのに、そんなんじゃ俺の骨折り損じゃねーの?」


シジュはニヤリと笑うと、ヨイチの脇を思い切り抓る。


「いっだぁっ!! 痛いよシジュ!!」


「おう、元気になったなー」


「良かった、いつもの叔父さんだ」


まるで小学生のような嫌がらせに対し、ヨイチは口では怒りながらもシジュに感謝する。今更ジタバタしてもしょうがない。要は『魅せる』事が出来れば良いのだから、簡単なことだ。


「そうだね。いつも通りやれば良いよね」


キラキラな笑顔で言うヨイチに、にっこり笑顔のフミと、苦笑しているシジュ。そしてミロクは……


「…………」


先程よりもさらに青ざめ、ひたすら震えていた。


「ミロク君ごめん、君に一番プレッシャーが……」

「おいミロク、お前がいないとアウトなんだぞ」


「ダ、ダイジョウブデス」


((これはダメなヤツだ……))


これは失敗したと、ヨイチとシジュが頭を抱えていると、フミがトコトコと近づいてくる。


「ミロクさん?」


「…………」


能面のような顔で、フミの言葉にも反応しないミロク。それでも彼女はひたすらミロクに声をかけている。


「ミロクさん、大丈夫ですよ」


「…………」


「ちゃんと応援しますから」


「…………」


「ずっと、ずっとミロクさんを支えますから」


「……本当に?」


「もちろんです!」


ミロクが反応したことに喜ぶフミ。一生懸命に応援していることや、支えていく決意を語る。


だんだん顔色が元に戻るミロク。それどころかどこか陶酔するかのように、フミをうっとりと甘く見つめる。


「あ、あの、ミロクさん……?」


無言で、そしてひたすらうっとりと見つめられて、居心地の悪い思いをしているフミは、「そろそろ時間です!」というイベントスタッフの声に助けられる。


「頑張ってきてください!」


「うん!」

「おう!」

「……」


相変わらず無言のミロクだったが、ふとフミに近づき蕩けるような笑みを浮かべて言った。


「俺の事ずっと支えるって、本当?」


「はい!もちろんです!」


「それってプロポーズ?」


言われた瞬間、真っ赤に茹で上がるフミ。

行ってきます!と元気に舞台へ向かって行ったミロクに、今度はフミが無言になってしまったのであった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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