邂逅
そのネズミとの出会いは、ある酒場街でのことだった。
「あら、相変わらずお兄さんいい飲みっぷり。ほら、もっとじゃんじゃん飲んで……って、こっちのお兄さんはもうダウン?」
「あっはっはっ! 飲み比べはこれで仕舞いだ。約束どおり支払いは全部あんただ」
「くっそお! 次こそは覚えてろよ!」
捨て台詞を残していく男を見送りながら笑う彼は、度数の高い酒と摘みを交互に口へ運ぶ。
「そうだ、例のアレの話。どうなった?」
「おかげ様でねー、なんとかなった」
「そりゃあ良かった! 腕を振るった甲斐があるってもんだ」
「でね、景品でしゃべるネズミをもらったの」
彼は耳を疑ったのか、即座に聞き返した。
「しゃべるネズミって、インコみてえに会話できるわけじゃ?」
「それがね、話せるのよ」
「おいおい、そんなにレアな景品があったのかい?」
「レアって、ただ話すだけじゃない」
不思議そうに返す店の女に、彼はこう説明した。
「会話できる動物ってのはな、重宝するんだ。しかもそれがネズミともなりゃあ……値段にできるもんじゃない。狭いところに入れるから諜報にも使えるし、餌も適当なもんで満足しやがる。国の軍部とかが欲しがるもんだな」
「へぇ~物知り」
「昔はそういう仕事の話をよく耳にしたもんだ。もう何年前になるから出処は覚えちゃいねえが」
女は酒を何本もあける彼を余所に少しばかり首を傾げていたが、唐突に口を開いた。
「そのネズミ、いる?」
「で、こいつがそのネズミか」
『なんだお前!』
「おお、本当にしゃべりやがる。上手いもんだな」
「でしょー? レア物ってすごいね」
『無視すんな!』
キーキー喚くネズミを見て、彼はこう言った。
「おい、ネズミ」
『なんだ。あと俺様はネズミじゃない、牙噛と呼べ』
「じゃあ……キバカム。俺と旅に出る気はないか?」
『土下座して毎日肉をくれるというのなら、行ってやらんことはない』
「すまん、俺の手には負えない。女さん、殺すか?」
「ひぃやめて許して」
こうして、ネズミは彼の仲間となった。