受命
大神殿に到着した彼は、中に入ると熱烈な歓迎をうけた。
わらわらと死人のような顔で……否、それは死人、それが大量にいたのだ。
「チッ、量産品の亡者どもが。煩わせるな忌々しいッ!」
獅子のように、男は怒号を神殿内に響かせた。
「かかって来い亡者ども。こちとら腹が減ってしかたねぇんだ」
右手と左手を空に構える彼を前にして、亡者の群れを統制する指揮官が前へと出た。
骨だけとなった身に、マントのみを羽織った身軽な出で立ちだった。
「貴方が魔王龍様が言っていた槍使い、ナルホド、腕は確かなようだ。この数を前にして覚悟はおありで?」
「テメーがリーダーか。悪いが俺は口が達者じゃねぇんだ。早々にケリをつけて飯を食いたい」
「おやおや……この私を相手にして生きて帰れるとでも?」
大仰なしぐさで髑髏が煽る。
彼はすぐに挑発だと気付いたが、無視した。
「……魔龍軍随一と謳われた私の剣さばきを見るがいいっ!」
戦闘は始まっているのだ。語るのは無粋か。
そう感じたのか、軍のリーダーがどこからか取り出した剣を振りかざし躍りかかる。
「消えええぇいっ!!」
「槍よ、我が手に」
構えていた手に、光の粒子が集まって槍が出来上がる。
これが彼の武器、『葬槍』。
亡者を屠るためだけの槍。
「フンッ!」
その槍の特徴は、とにかく重いということ。
持ち上げるのにも一苦労するほどで、鍛え上げられた彼の肉体で一振りするのがやっと。だが、そのぶん強い。
「なっ、なぜ私の剣が折れた」
「剣は所詮薄い刃よ。とにかく堅いだけが取り柄のこの槍にぶち当てればこうなる」
槍が翻り、豪激を放つ。
髑髏の首が落ち、亡者はたじろいだ。
「さっさと失せろ!雑兵共が!」
獅子と見紛うほどの気迫に気圧されて、退いていく亡者。
彼は満足そうにそれを見送ると、溜め息を吐いた。
「飯だ。出てきな」
チロっ。
彼の懐から、一匹の動物が顔を出した。
『相変わらずもんのすげえ槍さばきだったな、アニキ』
「褒めるな。何も出ないぞ」
『そんで、今日の晩飯は?』
「豚が捕れた。丸焼きにしよう」
『火起こしは任せろ!』
器用にもVを尻尾で表現しながら、それは地面へと降り立った。
「ここは酷いもんだな」
『俺みてえなネズミに比べりゃ楽園さ。住めるだけでありがてぇってもんだ』
「そんなもんかね」
『そんなもんだ』
とりとめのない会話をしつつも、準備は進められていく。
槍使いの槍は粒子へと戻り消え去り、変わり箸や皿などの調理用具が現れる。
薪にネズミが火を着けて、彼が仕留めた豚を燻製にする。
その作業は数時間続いた。
「もういいだろう。食え」
『ありがとよアニキ』
「いつものことだよ。どうせネズミが食う量なんてたかが知れてるんだ。気にしねえさ」
『そんじゃ、頂くぜ』
肉を貪りだしたネズミの勢いは凄まじいものがあった、それを無視して彼も肉に齧り付く。
「おいおい、こいつはレア物か?」
『どうやらそうみたいだな、肉汁の風味がとんでもない。旨みが凝縮されてるって感じだ。筋も少ないな、いい肉だよこりゃ』
「ここ最近はレア物にありつけていなかったからな。この旅のお供に丁度いいか」
『燻製にして良かったな』
ネズミが笑う。
それにつられて、彼も笑う。
この光景は、異質ながらも家族の食卓であった。