表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

受命

 大神殿に到着した彼は、中に入ると熱烈な歓迎をうけた。

 わらわらと死人のような顔で……否、それは死人、それが大量にいたのだ。


「チッ、量産品の亡者どもが。煩わせるな忌々しいッ!」


 獅子のように、男は怒号を神殿内に響かせた。


「かかって来い亡者ども。こちとら腹が減ってしかたねぇんだ」


 右手と左手を空に構える彼を前にして、亡者の群れを統制する指揮官が前へと出た。

 骨だけとなった身に、マントのみを羽織った身軽な出で立ちだった。


「貴方が魔王龍様が言っていた槍使い、ナルホド、腕は確かなようだ。この数を前にして覚悟はおありで?」

「テメーがリーダーか。悪いが俺は口が達者じゃねぇんだ。早々にケリをつけて飯を食いたい」

「おやおや……この私を相手にして生きて帰れるとでも?」


 大仰なしぐさで髑髏が煽る。

 彼はすぐに挑発だと気付いたが、無視した。


「……魔龍軍随一と謳われた私の剣さばきを見るがいいっ!」


 戦闘は始まっているのだ。語るのは無粋か。

 そう感じたのか、軍のリーダーがどこからか取り出した剣を振りかざし躍りかかる。


「消えええぇいっ!!」

「槍よ、我が手に」


 構えていた手に、光の粒子が集まって槍が出来上がる。

 これが彼の武器、『葬槍』。

 亡者を屠るためだけの槍。


「フンッ!」


 その槍の特徴は、とにかく重いということ。

 持ち上げるのにも一苦労するほどで、鍛え上げられた彼の肉体で一振りするのがやっと。だが、そのぶん強い。


「なっ、なぜ私の剣が折れた」

「剣は所詮薄い刃よ。とにかく堅いだけが取り柄のこの槍にぶち当てればこうなる」


 槍が翻り、豪激を放つ。

 髑髏の首が落ち、亡者はたじろいだ。


「さっさと失せろ!雑兵共が!」


 獅子と見紛うほどの気迫に気圧されて、退いていく亡者。

 彼は満足そうにそれを見送ると、溜め息を吐いた。




「飯だ。出てきな」


 チロっ。

 彼の懐から、一匹の動物が顔を出した。


『相変わらずもんのすげえ槍さばきだったな、アニキ』

「褒めるな。何も出ないぞ」

『そんで、今日の晩飯は?』

「豚が捕れた。丸焼きにしよう」

『火起こしは任せろ!』


 器用にもVを尻尾で表現しながら、それは地面へと降り立った。


「ここは酷いもんだな」

『俺みてえなネズミに比べりゃ楽園さ。住めるだけでありがてぇってもんだ』

「そんなもんかね」

『そんなもんだ』


 とりとめのない会話をしつつも、準備は進められていく。

 槍使いの槍は粒子へと戻り消え去り、変わり箸や皿などの調理用具が現れる。

 薪にネズミが火を着けて、彼が仕留めた豚を燻製にする。

 その作業は数時間続いた。




「もういいだろう。食え」

『ありがとよアニキ』

「いつものことだよ。どうせネズミが食う量なんてたかが知れてるんだ。気にしねえさ」

『そんじゃ、頂くぜ』


 肉を貪りだしたネズミの勢いは凄まじいものがあった、それを無視して彼も肉に齧り付く。


「おいおい、こいつはレア物か?」

『どうやらそうみたいだな、肉汁の風味がとんでもない。旨みが凝縮されてるって感じだ。筋も少ないな、いい肉だよこりゃ』

「ここ最近はレア物にありつけていなかったからな。この旅のお供に丁度いいか」

『燻製にして良かったな』


 ネズミが笑う。

 それにつられて、彼も笑う。

 この光景は、異質ながらも家族の食卓であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ