襲撃の夜
虫、蛙、鳥の鳴き声が不協和音を奏でる。
月は浮かび、雲一つない夜空。
森の奥にポツンと在る、小さな農村。
その寂れ果てた農村に目をつけた盗賊が、村民を脅して農作物を巻き上げようとしていた。
老人に怒鳴りつける盗賊を見かねてか、村長宅の奥から一人の青年が姿を現した。
「騒がしいと思ったら、こすい盗賊どもかよ」
「旅人さん、逃げなされ! こやつらは巷で噂のルンバ盗賊団……若い命を無駄にしてはいけない」
「そうだぜ、俺達は悪名高いルンバ盗賊団! 活きがいいあんちゃん、大人し……」
それは一瞬だった。
「わりぃ、聞こえなかった」
彼はどこからともなく取り出した槍で、首を撥ねたのだ。
「……っ! 逃げるぞっ!」
盗賊の頭が叫ぶと、ぬるぬると地面に蠢く影が現れた。
――それは例えるとするならば沼。その沼は盗賊たちを飲み込まんとしている。
「――こんだけやっといて、逃げるってか? それはムシが良すぎる話だぜお頭さんよぉっ!
この『刃金槍』の錆となれ!」
彼が『刃金槍』と言った槍は、銀に金をまぶしたような輝く色をしていた。
槍を地面に突き立てると、淡い光が闇夜に輝く。
影は光に押しつぶされて、消えた。
「……てめぇら戦るぞ、覚悟しろ」
「へい、おかしらあぁっ!」
「こりゃあ骨が折れそうだ……かかってこい盗賊ども」
その後、激しい戦いが繰り広げられた。
どんな闘争よりも、どんな戦闘よりも、どんな狂騒よりも、どんな戦争よりも。
熱く滾り、村は紅で染まった。
日の出とともに、勝負は決した。
「旅人さん、あんた一体……?」
「俺か、俺はな――」
旅人は槍を太陽に突き立てて、告げた。
「――神様の遣いってやつだ」