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ハナは口ごもった。すぐに何か言い返そうとしたが、言葉を飲み込んだ。そして、ロードのことを睨みつけて、改めて口を開いた。
「……あなた、むかつくわ」
「同じ意見だな」
ロードはハナの方を見向きもせずに言った。
ハナは椅子から立ち上がった。
「こんなにむかつく人間と出逢ったのは、2度目よ」
「甘やかされて育ったんだな」
ハナは握った拳を震わせていた。そして、ぽつりと呟いた。
「……エクス……あいつも、むかつく奴だったわ」
ロードとザンサスは、はっとしてハナの顔を見た。ロードが言った。
「お前、エクスと会ったことがあるのか?」
そのとき、マスターが戻ってきた。
「こらこら、何をもめているんだ?」
マスターは心配そうに、ハナとロードの顔を見た。
「大したことじゃありません」
黙り込んだロードとハナの代わりに、ザンサスがそう言った。
「そうか。ならいいが……」
マスターは3人の顔を訝しげに見ながら、首を捻った。
「……それより、宿の交渉できたぞ」
ハナは暗い表情で、すとんと椅子に腰を落とした。ロードはじっとハナのことを見ている。
マスターは白紙にペンを走らせながら話を続けた。地図を書いている。
「場所もすぐこの近くだ。若い夫婦でやっている小さな町道場なんだが、先月師範代である旦那が病気で倒れて、嫁が1人で大勢の門生の面倒を見ているらしい。そこに、まあ、素人に戦い方を教えろとは言わないが、人手があるだけ助かる、ということだったから。行ってやってくれ」
「ありがとうございます。とても助かった」
ザンサスはそう言って、マスターが地図を書いた紙を受け取った。
「早速行ってみますか、ロードさん」
「……ああ」
ロードは財布から紙幣を数枚取り出し、マスターへ渡した。
「釣銭を持ってくる。ちょっと待っていてくれ」
「いや、釣りはいい。宿を紹介してもらった礼だ。あと……」
ロードはハナを指差した。
「こいつの分も、その中から支払っといてくれ」
ロードの言葉に、ハナは目を丸くして顔を上げた。コートを来て外に出る支度をしているロードとザンサスの姿が目に入った。
「今日は泊まるアテあるのか?」
ロードはコートを着ながら言った。
「……え、あ、いや……」
「じゃあお前も来い」
「ど……どうして!?」
ハナは面食らったような表情となり、声をあげた。
「あ、あなたがさっき言ったこと、間違ってないわ……あの、確かに、不用心だった……し……。だから、別にそのことだったら—」
「勘違いするな。ただの取引だ」
「……え?」
「その代わり、俺達が知っている情報を分けてやるって言ってるんだ。……不満なのか?」
ロードとザンサスが店を出て行った。
立ち尽くしていたハナは、意を決し、すぐにその後を追った。