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ザンサスの目の前にパスタが置かれた。ザンサスはパスタにフォークを入れながら言った。
「ロードさん、これからどうしますか」
「そうだな……」
ロードはカクテルに口を付けながら、ぼんやりとしている。
「とりあえず、今日の寝床捜してみるか……」
ザンサスは「わかりました」と頷いて、マスターを呼んだ。
マスターは、未だに女の相手をしていたが、ロード達の方へ顔を向けた。
「相談があります」
「なんだい」
「出来ることであれば何でもやります。その代わり、タダで寝床貸してくれそうな人がいないだろうか。いたら紹介してほしいのですが」
「寝床? ……ああ、あんたたち旅の人間か?」
「そうです。でもあまり金がなくて、昨日なんて野宿だった。力仕事でも子どもの守りでも何でもします。私とこの方を2人、泊めてくれそうなところを紹介していただきたい」
「何でも?」
マスターはそう言って、ザンサスの背中の刀に目をやった。
「……あんた、刀使えるのかい?」
ザンサスは頷いた。
「もちろん。伊達じゃない」
「そうか……なら一つ交渉できるかもしれない」
マスターは電話機の元へ歩き出し、子機を持ち上げた。
その様子を、ロードとザンサス、そしてオレンジ髪の女は、黙って見ていた。
ふと、女が初めて、ロード達の方へ顔を向けた。
「あなた達も、旅をしているの?」
女がそう言うと、眉間に皺を作ったロードが、むっとして答えた。
「そうだと先ほど言ったが」
女は、ふーん、と言いながら、2人の顔を交互に見た。
「……なんだよ」
「私も同じよ。まだ隣村から出てきたばかりだけど」
ロードとザンサスは、女の話に特に興味もなさそうにしていた。女はそれに気付いていないのか、そのまま話はじめた。
「私の名前はハナ。ある男を捜しているの」
「……エクスか」
ロードがそう言うと、ハナは目を丸くした。
「え、どうして分かったの!? あ、まさか、あなたたちも……」
「話の内容で分かる。今はそういう世界だ」
「……ま、まあ、そうね……」
ハナは興奮した様子を隠すように、こほん、と一度咳払いをした。
「じゃあ、あなた達、何かエクスについて知っ」
「知っていても教えるか。教える義理がねえ」
ハナの言葉を遮り、ロードは強い口調で切り捨てた。
呆然となったハナを見兼ね、ロードの隣でパスタを食べ終わったザンサスが、ロードの代わりに口を開いた。
「この平和な世界で、唯一の兇悪と言っていい存在であるエクス。顔も、声も、素性も一切不明の謎の人間。数年前に突如この世界に現れて、どんな理由からかこの平和な世界の敵となり、そしてすぐ突然また姿を消した。エクスが何をしたかったのか、未だに不明」
ハナはザンサスの方へ目を向けた。ザンサスは手のひらを合わせて、「ごちそうさま」と小さく呟いた。
ハナがザンサスの後の言葉を続けた。
「エクスの名前を知らない人間はいない……でも、情報は一切ない。むしろ、エクスなんて本当は存在していなかったんじゃないか、なんて噂だってある」
「だからこそ、エクスの存在が本当にあるのか、興味本位だけで捜そうとする輩は多い。そんな奴らは、エクスのことを大抵甘く見ている。エクスがどんな人間かも、どんな強さを持っているかも知らずに近づこうとしている。それがどんなに無謀で、命知らずのことか、分かっていない」
ザンサスはそう言って、呆れているように首を横に振った。
「……もしかしてあなた達は、何か知っているというの?」
ザンサスがその質問に答えず視線を落とすと、ロードがまた冷たい表情で口を開いた。
「だから、教えないって言っているだろ」
ロードの口調はとげとげしく、ハナを明らかに拒絶した態度だった。
「特にお前みたいな、誰が何を聞いているか分からない場所で、堂々とエクスのことを探っているような奴にはな」