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Barの店内は、外と違って人の数は賑わっており、テーブル席もカウンター席も、ほとんど埋まっている状態だった。
しかし誰もが、騒ぐことなく酒を嗜んでいる。
カウンター越しに、マスターと思われる年配の男性と、1人の若い女性客が話をしていた。
「……お嬢さん、あんたもねぇ」
マスターは蓄えたあご髭をさすりながら、ため息まじりに言った。
カウンター越しに座っているその客は、幼い顔立ちをした若い女だった。自分の髪と同じオレンジ色の飲み物が注がれたコップにストローを挿し、ちるちると飲んでいる。
「どうするつもりか知らないけど、世の中知っていい事と知らなくていい事ってのがあるんだよ」
そう話すマスターの表情は、先ほどから曇っていた。マスターの言葉を黙って聞いているオレンジ髪の女も、表情は晴れていない。
マスターは入り口のドアが開く音が聞こえると、顔を向けた。
2人の男、ロードとザンサスの姿が目に入った。
「いらっしゃいませ。お好きなところへ」
ロードは店内を見渡しながら、店内の奥カウンターの方へ進んだ。
そして、オレンジ髪の女の隣の席を指差して、マスターに向かって言った。
「ここ、いいか?」
「ああ。……いいよね、お嬢さん」
女はロード達に目を配ることなく、むすっとした表情のまま頷いた。
ロードとザンサスがコートやマフラーを脱ぎながら席に座ろうとすると、マスターは女に向かって先ほどの続きを話しだした。
「例えば、あんたが今私に聞いてきたことは、イイ例だね。間違いなく、知らなくていい事だよ」
「……」
ロードは、おしぼりを持ってきたバーテンダーに向かって手をひらりとさせた。
「何か適当にあったまるやつと、あったかい茶1つずつ」
「かしこまりました」
ロードは一息吐き出し、そこでようやく、隣で俯いている女の姿にちらりと目をやった。
「……そんなこと言って」
先ほどまで黙っていた女が、突然口を開いた。
「どうして大して知らないんでしょ! 偉そうに!」
マスターはまた深いため息をついた。
女は眉をひそめながら、飲み干して空になったコップをマスターに突き出した。
「どこに行ってもそう…みーーーーーーーんな、知らないんだから!」
マスターはコップを受け取り「まだ飲む?」と聞いた。女はそれに返事はせず、頬杖をついた。
「なんでみんな知らないのよ? あんな有名人! 誰か一人くらい、ちょっとだけでも情報もってないの?」
ロードは横目でザンサスを見た。
ザンサスはその視線に気付いてか気付かずか、変わらない冷静な顔で、ロードの方を向き言った。
「お腹すきませんか? 私はパスタのようなものを、食べたいですね」