【村会議】
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「ケイターッ!レジ手伝ってくれるかい?」
「ちょっと待って、今行く!」
「あ。…他の仕事は上々なのにパンの飾りつけは相変わらずねぇ。」
あれから数日。俺は手始めにマリランさんのパン屋のお手伝い…いわばバイトを始めた。このようなマリランさんと俺のやり取りも最早恒例となっておりお客さんは微笑みながら慣れない手つきの俺を優しく見守ってくれている。
連日お客さんも多く、常連さんにはもう俺の顔が知れ渡っていた。
数人の常連さんと話せるようにもなったし、あちら側も俺を心配してかおすそ分けやお仕事探しの手伝いをしてくれる。この町を美帆以上に知っているし嬉しいし、頼もしい限りだ。
「しょうがないじゃない。だって柏木、不器用なんだものね。」
店の入り口から美帆の声がした。
「あら!お届け物かい?」
「そうそう。村に新しくカフェができるみたいで、その開店を記念して村のお店全部にカフェのケーキを送ってるみたいなの。これはマリランのとこのよ。」
「へぇ、いいねぇ。カフェなんて、お洒落じゃないかい」
「でしょ?今度行かない?」
「喜んで。」
美帆はどうやら村の配達員らしい。村は元気に見えるが若い人はいまいち多くはない。ほとんどはそれぞれのお店の手伝いに駆り出されていて、美帆みたいにいろんなものをいろんなところへ届ける人はいなかったそうだ。
だから美帆は自分で仕事を作り上げた。
…なんだかカッコいい。俺も仕事を見つけるならだれもやったことのないことをしてみたいと思うのも無理はないと思う。
「あらまぁ、ガトーショコラじゃない。おいしそう。ミホ、そのカフェの店長さんに伝言も頼めるかい?」
「えぇ、一回確認のために戻ってくるからついでに言うわ」
「‘ありがとうございます、うれしかったです。お互い、頑張りましょうね。’って」
「承りました。…じゃ、他のとこにも届けてくるね!」
「気を付けるのよ」
やっぱり親子だなぁ。
最近気づいたのだがどうやらこの二人を親子のようだと感じるのは俺だけじゃなく村の人達も同じのようだ。
俺を含めお客さん達もこの光景を見て自然と口元が緩んでいた。
うん、今日も平和だ。
*****
「「…お祭り?」」
「そう!この村もかなり大きくなってきたからね。王妃様と姫様がうちの村に顔をだしに来るらしいんだよ。」
その晩、マリランさんは俺と美帆を呼び出してお祭りについて教えてくれた。
概要はマリランさんの言ったとおりらしい。
いろいろなお店がいろいろな屋台を出して村中が明るくなるらしい。…正直、すごく楽しみだ。やはり男子高校生は楽しそうなことに目がない。…男子高校生は関係があるのかどうかは知らないが。
それは美帆も同じのようで
「マリラン!マリランも屋台を出すの?」
「そうだねぇ。場所があれば、お祭り限定商品でも作って出したいね。」
「わぁーっ楽しみー!」
柄にもなくはしゃいでいる。
いつものツンはどこへ捨てた。…いや、マリランさんの前ではツンなんてなかったか。…悲しい。
「よし、じゃあそうと決まればさっそく場所取りだね!マリランさん、いいところとっておこうよ!」
「あははっ、ちょっと待ちなさい。場所取りは公平じゃなくちゃね。明後日の村会議で決められるよ。」
「そうなの?」
…ん?
「あの…村会議って何だ?」
「あぁ、ケイタはまだ知らなかったね。」
「そのままの意味よ。」
「大雑把だな。」
「まぁ、そうだね。村のイベント、取決めは全てそれで話し合うのさ。今回のお祭りじゃあ屋台の位置取りを村会議で決めて、それを地図にするのさ。当日、地図を配ってきた人がわかりやすいように…みたいにね。まぁ、運営みたいな役割だね。」
「成程な…」
「まぁ、私が来てから一回しか村会議なんて行われてなかったわよね」
「そうねぇ、そこまで大きな事件とか出来事がない村だし…。よく言えば平和、平穏。悪く言えば変化がない。ってとこかしらねぇ。」
「いいと思うけどな、俺は。」
村の仕組みとか全然知らなかった。
自分のことでいっぱいいっぱいだったしな。
「まぁ、今日はもうお眠り。明日あたりからきっとお祭りの準備で忙しいよ!」
「じゃ、寝よっか。」
「そうだな」
「うん、いい子だ。」
俺は二人のことを親子だと言っているけど俺もなかなかこの空間に馴染んでしまっている気がする。いいことだ、きっと。
初日の不安はとうに消えていて俺はこの日々を楽しみ始めていた。