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【お母さんマリラン】



そうこうしているといつの間にか辺りはぽつぽつ民家が見えてきた。

少し先には大きな門も見える。


ここが町、なのか。大きいな。


いや、まぁ…俺達が普段住んでいる町に比べると狭いけど人々の活気が目に見えてるっていうか…



「なにか、感じることがあるよね」

「あ?あぁ、そりゃあ…少しは」

「私も初めてここに来た時はそう感じたよ」

「…お前、いつ来たんだ?」

「ざっと半年前かな」

「げっ!そんなになのか!?」

「日にちだけで見るとね。…実際、短いものだよ。」



そういう美帆の顔はどこか暗い。

なんだよ、急にそんな顔すんなよ。

…連れてこられた俺が不安になっちまうじゃねぇか。


そう思っていると急に美帆は微笑んで



「だってね、毎日が楽しいの!」

「…え?」

「マリランも優しいし、仕事だってあるし、やることはなくならないし。充実した生活を送れるの。」



きゅ、急にどうした…?マリランって誰だ?

人が変わったかのようにこの町のことを話し出す美帆。

…なるほど、余程この町が好きみたいだな。



「…あ!柏木、あの人が私がお世話になってる人。マリランよ。」

「あの人か」

「そっ!じゃあ私詳しいこと話してくるから、挨拶してよね。」


そういうと返事も聞かずマリランさんの胸の中にぼふっと飛び込んだ。


こうして見ると本当の親子みたいな空気がある。

けど、多分…世話になってるっていう時点で他人なんだよな。…多分マリランさんの雰囲気の所為でもあるんだろうけど。


マリランさんは真っ黒な髪の毛を横で結っていて、大体四十代前半から三十代後半ぐらいか…。おっとりとした雰囲気をまとっていて、優しい目をしている。


…?マリランさんがこっちに歩いてくる。



「おやおや…大変だったわねぇ。初めまして、マリランです。よろしくね?」

「あ、はい。え、えっと…柏木啓太です。よろしくお願いします!」

「あはははっ!そんなに固くならなくていいんだよ?ほら、とりあえず中へ入りなさい。」

「すみません…。お邪魔します。」



連れられるがままに入ったのはこ洒落たパン屋さん。

中に入るとふわっとパンの甘く香ばしい匂いがする。いろんな種類のパンはあるし、人も数人いる。人々の笑顔を見ると相当おいしそうだ。


着いて行った先は店の奥。少し奥に行くだけで普通の家みたいなリビングが見えた。…広いな。



「さて、ミホから聞く限り二人だって出会ったばかりでしょう。お菓子と飲み物を持ってくるから少しお話しててね。」

「…あ、ありがとうございます」

「えー!こいつと二人!?」

「もう、失礼よ?えっと…ケイタくん?紅茶でいいかしら。」

「構いません」

「わかったわ。じゃあ少し待っててね」



そういうとマリランさんはバタンと扉を閉めて店の方に行ってしまった。



「「…」」



…沈黙。き、気まずすぎる。



「…あのさ、」

「…は、はいっ!」

「何よ、変人。」

「急にしゃべるからだろ!」

「今はそんなこと話してる場合じゃないのよ」

「なんだよ」

「情報交換しましょう」

「…は?」



…あの、情報っつっても俺何も知らない



「アンタ、ココに来る前はどうしてたの?」

「…寝てた」

「…アンタね」

「悪かったな」

「じゃあ、ココに来てからどのくらい?」

「約三十分前。」

「ついさっきじゃない!」

「そうですけど」

「…はぁ、なんか期待して損した。でも同じ境遇の人がいてよかったわ」

「そういうお前はどうなんだよ」

「私もだいたい同じ。寝てたらいつのまにかココにね。でも私はそんな草原じゃなくて村の端にあるお花畑にいたわ。」

「…ここで差別が感じられる」

「格が違うのよ。か・く・が!」

「うるせぇ!」

「まぁでも不安がることはないわ。ここでの生活もなかなかのものよ。」

「はぁ!?ここで暮らすのか!?」

「だってそれ以外に方法はないでしょ」

「そうだけどよ…。お前、家族とか…」

「そりゃ心配だし会いたいわ。けど、今それを考えたってココから出られるわけでもないでしょ?いつか、チャンスが来るわよ。…きっと」

「きっとなんて言ってたらいつまで経っても!」


バンッ


美帆が思いっきり机をたたいた。



「わかってるわ!わかってるけど…!!」



切なげな表情のまま美帆は力なくつぶやいた。



「私は…無力なんだもの。何も…できないの。」



美帆はそういうと目から涙を滲ませた。

…これは、俺が悪かったかな。感情まかせに全部叫んじまった。

そりゃ帰りたいのは普通だよな。…そう、だよな。美帆は半年も前からずっとココに居るんだよな。



「…美帆、ごめん」

「!」

「何も知らない俺がなんか…その…」

「べ、別にいいわよ!この反応私だってしてただろうし…!」

「…」



こいつ…大人だ…すっげぇ大人だ。見かけによらず(失礼です)。



「とっ、とにかく、帰りたいのはわかるから、方法がわかるまでは働くの。ここで暮らすの。私と、帰る方法を見つけるの。協力しないと。わかった?」

「あぁ、わかった」

「うん、で。肝心な住むところだけど…」


「それならうちを使いなさい!部屋はいくらでもあるんだから!」


「「え」」



振り返るといつのまに戻ってきたのかマリランさんが紅茶とクッキーを持ちながら微笑んでいた。…うーん、お母さん感半端ない。



「ちょ、マリラン!やめてよ!こんな奴と同じ屋根の下!?絶対に嫌!」

「な、お前さっきまで協力しないと、とか言ってたじゃねぇか!」

「知らない!それとこれは別なのよ!」

「はいはいはい、ストーップ。埒が明かないわ」

「…だってマリランあの」

「言い訳無用。これはこの家の主、マリランが決めたことなの。決定事項なのよ、ミホ。」

「…はぁい」



うーん、母は強し、だな。

どの家庭、どの世界(?)でも同じなのか。勉強になった。


で、とにかく俺は今日からマリランさんの家にお世話になることとなった。


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