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高天原物語  作者: 兎鬼
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『十九章 災いは何度も』

さらに下流へ、ここまで来れば川の流れは緩やかになった。ここで釣りでもしたいが、このどんよりした空気がやる気を削ぐ。


「はぁ、でもこのどんよりした空気の原因を調べないとな・・・」


この空気は異常である、妖怪が何千と集まってもここまでは酷くならない筈だ。ただ下流、下流へと進むと、人影が見えた。


「っ―――!」


スサノオは身構えた、その人影は己自身の姿をしている。ああ、そうだ。マガツチだ!


マガツチはこちらに気づくとゆっくりと振り返る、足元にはボロボロになった人形がいくつも落ちている。


「よう、お前が原因か」


「久しぶりだなァ、見ろよこの人形たち」


と足元の人形を一体拾う。


「素晴らしいだろ?人間が流し雛の時に流した雛人形だ」


「なるほど、この川にいい噂がないのはそれか」


「そうか、いい噂はないか。だがな、こいつらが溜め込んだ厄、それは俺にとって最高の御馳走!」


人形たちから黒い影が浮かび上がり、マガツチのなかへ吸い込まれて行く。


その力は辺りを震わせ、スサノオに冷や汗をかかせた。


「なぁマガツチ、お前は何を求めてるんだ」


「さぁな、ただ俺はな、人間が嫌いになったんだ」


「そりゃあ災いは嫌いさ、誰でも」


「フッ、違うね。俺が人間のことを嫌いな理由はな――信仰を忘れているからだよ」


「信仰、か。仕方がないかもしれないな、人間だってそれぞれの思考を持つ、新しい進化を求める、古いものは忘れられる」


「古いもの?それが気にくわないんだよ!拝むだけ拝み飽きたら捨てられる、それでお前はいいのか?」


「マガツチ・・・悲しいが一度忘れたものはなかなか戻らない」


「忘れたなら思い出させてやるさ!俺の力を魅せてな!」


「それはさせない、力が全てとは限らないからな」


マガツチから黒い影が現れ、スサノオを襲う。スサノオは刀で影を斬り、間合いを詰めていく、マガツチは少し下がると落ちていた人形が一人でに動きだし、スサノオを襲う。


「っつ!どうやら棄てられた人形たちはお前のことが好きなようだな!」



「そのようだな、いや感激感激」


とマガツチは笑う


「散れ!」


スサノオは刀で人形を斬りつける、なんということか、二つに分かれることはなく地に落ち、暫く経てばまた動き始める。この間にスサノオはマガツチと距離を詰めた、マガツチはそれでいても笑っており、それがスサノオを苛つかせる。スサノオが刀を振るとマガツチは体を霧散させ、刀を避けた。


「いや似ている、苛立ちの顔。まさにイザナギそのものだ」


イザナギ・・・スサノオは彼を知っている。そしてその名はスサノオをさらに苛立たせた。


「そいつの名を出すなぁ!」


僅かに残る塵に向けて刀を振る、が虚しく空を斬るだけである。


「あいつはまだ諦めていない、隙あらば黄泉へと向かおうとする」


「ああ、そうさ。あいつは俺らなんかより自分の妻が好きな薄情者だよ」


あいつが勝手なことを押し付けたせいで、俺たちがどれだけ苦しみ、悲しんだか。


「いいねえその憎しみ、実に美味い」


その言葉にハッと我に帰る。どういうわけかマガツチは憎しみや悲しみと言った負の感情を欲する、これはやつに力を与えているも同然なのでは?スサノオは気づいた、ならば。


「いや全然悲しくないね!」


「は?」


「いやあお前と戦えて楽しい!」


「た、楽しい!?」


予想通り、マガツチは楽しいという感情に戸惑っている。


「ああ嬉しくもある!今日はいい日だな!」


「や、やめろ!」


マガツチは姿を現すとそくささと逃げていった、あとに残されたスサノオはため息をつき、家へ戻ることにした。




――――――


「着いた、ここがお前の住まいだ」


日が照っているなか、一つの城がある。ユリックはその城を見上げ。


「まあ、綺麗な城だこと!」


嫌みそうに言った、確かに外壁は所々崩れ、庭には雑草が生い茂り、門もぐにゃりと曲がっている。


「まあ仕方ないさ、何百年も主がいない城さ、数名のメイドも渡すからさ」


それでユリックは渋々承諾、先に城へ入る、その背中を見てシヴァは


「すまないな、少しは俺に償わせてくれ」


俺は急ぎすぎた、進化を求めるのに必死になり数多の命を奪った、さらにユリックの記憶さえ。せめてもの償い、これからも俺は彼女に償いをしなければならない。別にこれはブラフマーやヴィシュヌが言ったことではない。俺自信の意思だ。


さっそく城の修理屋と世話係のメイドを派遣するために一度自分の城に戻ろうとしたときだ。


「おや、君は・・・『私の城』になにかようかね?」


一人の男がいた、その脇には少女、吸血鬼の少女が抱えられている。


そして、シヴァはそれに見覚えがあった、昔、二人の吸血鬼がヴァンパイアハンターに追われていた、俺は気紛れで二人の吸血鬼を助けた、その二人はユリックとその少女である。いつの間にかいなくなったと思ったが・・・


「俺の城?この《不夜城》は数百年前に主を失ってそれきりだぞ」


「いや、まあそうかもしれんが、俺が密かに研究所を作っていてね」


「研究所・・・?その吸血鬼を使ってなにかするつもりか?」


「む、そうだ。というわけだ、通してもらうよ」


「そういうわけにはいかねえ、悪いがその吸血鬼には見覚えがあるんでね」


「・・・そうか、なら」


男は吸血鬼を木陰に寝かせるとこちらを向く。


「実力行使と行かせてもらう!」

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