『十八章 神の川流れ』
震える足で出雲村に戻り、クシナダに挨拶をし、自宅へ戻った、あの恐ろしい存在は寝て忘れよう。
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ある日
「最近なにか嫌な予感がするよのね」
天姉が呟く
「見には行かないぞ」
スサノオはめんどくさそうに言う、いやめんどくさいんだ。
「じゃあ私が行って怪我してくるわ」
「それは止めてくれ」
天姉が怪我だなんて考えられない。
「じゃあ行ってきてちょうだい」
「はあ、何処に行けばいいんだよ」
「ほら」と天姉は川を指差す。
「あの川の下流のほう、そこから何かを感じるわ」
「いやあの川は・・・」
あの川には余りいい噂がない。とくに下流のほうは。
「あなたなら問題ないでしょう?」
「むぅ、わかったよ」
俺はその川に沿って下流を目指した。
――――――
あれから暫くした、川は森のなかを通り、スサノオは森を渡っていた。
「ちょっと待ちな!」
不意に声が聞こえる、そのほうを見ると一人の河童がいた。
「なんだ、相撲はやらないぞ」
「こっから先は危険さ!なんかでっかい馬を見たんだ!」
「はあ、でっかい馬・・・」
「そうさ!あれはミカヅチ殿との熱き試合を終えてから帰る途中―――」
なにかいい始めたのでスサノオは先を通ろうとした。
「待てー!行くな行くな!行くなら僕が相手だ!」
「はあ、河童は川に流されてろ」
「何だと!なんならこの川を逆流させて君たちの住んでる場所を荒らすことも出来るんだぞ!」
「それは聞き捨てならないな、懲らしめてやろう」
刀を抜くと河童に斬りかかった。
「ひいい!」
河童は悲鳴を上げるとスッと姿を消した。
「やれやれ、今度胡瓜持ってくるからよ」
刀を鞘に仕舞うと再び進み始める。
・・・後ろ!
背後に何かの気配を感じ、蹴りを入れる、何もない空間に何かがいる、それはギャッと悲鳴を上げ姿を現す。河童だった。
「なんて厄介な奴だ」
「ぐぬぬ・・・姿を消しても見つかるなんて・・・分かったよ!君なんてでっかい馬にやられちゃえばいいんだ!」
そう言うと河童は立ち去った。
「はあ、やれやれ」
さらに下流に向かうにつれ、段々とどんよりした空気になるのを感じた。
「なんだ、ほんとに何かあるのか」
その時だ
「オオオオ!」
何かの唸り声が聞こえ、森のなかから巨大な馬が現れる。
「ハロー!やっぱり来たねスサノオ君!」
その背中に乗っている男が言う。
「なんてものを作ったんだ・・・」
「どうだ?素晴らしいだろう?僕が作った《クアドリガ》は!」
「やれやれ、そのクアドリガで何をするつもりなんだ?」
「それはね!この僕、《アポロン》の名をもっと広める為さ!」
「別にいいだろ、何でもお前、向こうじゃあ月に行ったらしいぞ」
清香がそんなことを言っていたのを思い出した。
「向こうってなんだい、僕はこの世界で父を越えたいのさ!」
「そうかい、まあでも暴れるなら鎮めるさ」
スサノオは飛び、アポロンに斬りかかる。
「フォームチェンジ!アーマーモード!」
クアドリガがバラバラに砕け散ったかと思うとアポロンの体に装着されて行く、その硬い装甲は刀を防いだ。
「なっ・・・」
「素晴らしいだろう?それにこれは様々な戦闘記録をコピーして再現出来る、例えば・・・」
アポロンは右腕を高く上げる、その手のひらに槍が形成されていくではないか。
「食らいな、『オーディンのグングニル』」
放たれた槍はいつか見たグングニルそっくりの威力でスサノオに迫る。
「マジかよ!」
あれだけは受けたくない、と密かに思っていた。スサノオは避けようとするがグングニルはそれに合わせて軌道を変える、神の槍は必中なのだ。
しかしスサノオは岩陰に身を隠す、槍は岩に突き刺さり動かなくなる。
ふう、と安心していたのもつかの間。
「・・・『スルトのレーヴァテイン』
上空から紅く燃える剣をアポロンは叩き付ける。スサノオは素早く身を翻し剣を避けるが、剣が地面に叩き付けられたところから炎が広がり、辺りの森を燃やし始める。
「やべえ、やりすぎた」
あちゃーとアポロンは頭を掻く、いやいや力加減してくれ。
「ま、いいか。どんどん行くよ、このクアドリガのテストだ。『灰被娘の全世界』!」
胸のところが開き、時計が現れる、そのとき、アポロン以外全ての時間は止まった。
アポロンはニヤリと笑い
「『金太郎の巨斧』!」
スサノオの前に巨大な斧が現れ。
時計の針が十二時に止まりゴーンゴーンと鐘が鳴る。
「んなっ!」
スサノオは驚く、一瞬にして目の前に巨大な斧があるからだ、斧はスサノオに向かって叩き付けられる、砂煙が上がり、スサノオの姿は見えなくなった。
「ふぃー・・・あぶねー」
ギリギリに避けたスサノオは汗を拭う、しかしどうすれば、あの硬い装甲に刀は文字通り刃が立たない。
「騒がしいから来てみれば」
「!!」
アポロンの背後に見覚えのある男が現れる。
「シヴァ!」
「よう、久しぶりだな」
「シヴァ!?バカな閉じ込められていたはずじゃあ!」
アポロンは腕をシヴァに向け
「くっ・・・『ミカヅチの超電磁―――」
「なんだそれ」
シヴァは一際目を大きく見開くと、アポロンの腕の装甲が爆発し、バラバラと砕け散る。
「なに!?何故だ!僕のクアドリガが!?」
「やれやれ、こんなのに苦戦してるのかよ」
フワリとシヴァはスサノオのほうに移動する。
「なにしに来たんだ?」
「いやなに、ユリックがいただろ、そいつの新しい住まいをさ」
「なんだ、優しいなお前」
「なっ!ブラフマーに言われて仕方なく・・・いや!今はコイツをどうにかしないとな!」
上空を飛ぶアポロンを睨む
「おのれ・・・!この僕に傷を!」
アポロンは胸を開き、なかから時計が現れる、確かあれが見えたあと、突然斧が現れたのだったな。
「おせぇ!」
シヴァはその時計を睨みつける、するとその時計は爆発する。
「な、な!?灰被娘まで!?」
「分かったか?あいつの弱点」
「いや、まったく」
「一度壊されたものは使えない、つまり今の奴は灰被娘と超電磁なんとかが使えないわけだ」
そこで、とシヴァは続ける
「俺が奴の装甲を目で破壊する、動きを止めてくれ」
スサノオは頷く
「おのれ!ならば『河童の光化学迷彩』!」
スッとアポロンの姿は見えなくなる。
「やれやれ、どこの本に影響されたのやら」
シヴァは近くの川に飛び込む
「早く来い、光化学迷彩とやらものは水に弱いと聞いた」
スサノオは急いで川に入る
「よく知っているな、そんなこと」
「ああ、なんでもブラフマーが聞いたんだと」
「誰に」
「オモイカネだ―――来ないな逃げたか?おい、東の」
「・・・え、まさか俺?」
「ああ、お前は東方に住んでるからこれでいいだろ」
「で、なんだよ・・・」
「見てこい」
「は?」
抵抗したがスサノオはシヴァに引っ張り出される。
陸に上がったが気配はなし、本当に逃げた?そう思ったときだ。
「がっ!」
突然首を掴まれる
「ふふ、まさか陸に上がってくるなんてね。甘い」
「甘いのはテメェだ!」
シヴァは川の水をスサノオ目掛けてぶっかけた。
「なに!?」
するとアポロンの姿が現れる、すかさずシヴァはその目でアポロンを見る。
ボンッと爆発音と共にアポロンを守っていた装甲は崩れ落ちる。
「やれ!スサノオ!」
「チッ!僕の傑作が!」
アポロンは手を離すと逃げていく。
「・・・逃がしたか、まあ当分悪いことは出来ないな、立てるか?東の」
とシヴァはスサノオに手を差し伸べる、スサノオはその手を握り、持ち上げた。
「・・・優しいな」
「っ!・・・べ、別に優しくなんか・・・」
「おいおい、いいのか?ユリックを待たせてるんじゃないのか?」
「ああ、そうだったな。じゃあな東の」
「そういやどこに住まわせるんだ?」
シヴァはある方向わ指差す
「あっちにある城だ、今は誰もいないからな、ちょうどよかった」
「へえ、よかったな」
確かあっちのほうにあった城って・・・
スサノオは吸血鬼である彼女が住まえるか不安になった、何せあっちにある城で唯一無人なのは――――
「いや、それより下ろう」
まだ下流のほうから嫌な空気を感じる、どんよりした禍々しい空気を