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高天原物語  作者: 兎鬼
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『十四章 Unknown』

今、私のまえには圧倒的な力を持つ敵がいる。


「まさか、追われている貴様らを助けた恩をこんな形で返すとはな」


敵はニヤリと口元を歪める。


「あんたに助けて貰った恩は忘れてない、けど、あんたのやり方は気にくわない」


「俺のやり方に文句があるのか。・・・例えばだな、一生懸命積み木で作った家があるとする。その積み木の家を壊すとする、次はまた同じものを作るか?」


「それは、また別のものを作るわ」


「ああ、そうだ。俺はそれを促す為に壊す、奴らはそれに気づかず俺のことを悪く言うだけだ」


「つまりあなたは無理矢理にでも進化を求めるのね」


「ああ、そうさ。いつまでも同じ積み木の家を見るのは飽きるだろう?」


「そう、飽きるのが嫌だからみんなを・・・」


私の頭には死んでいく人々の顔が蘇った。私は目の前にいる敵を許さない


「まさか仇討ちでもするつもりか?この、『悪魔の王』と恐れられる俺に!」


「ええ、相討ちでも構わない、あんたを殺す!」


「相討ち?ハハハ!たかが吸血鬼がこの俺に相討ちだと?笑わせるな!」


敵の目には怒りが宿っている、私は恐れることを忘れた、とにかくこいつだけは許さない。怒りしかなかった


「おおおあああ!!」


私はその鋭い爪で敵に斬りかかる。敵は私を見る、その時だ。ボンッと爆発音が聞こえたかと思うと羽に激痛が走る


「うぐっ・・・」


激痛に耐え兼ね、その場にうずくまる。敵はそんな私を見下し


「哀れな吸血鬼だ、貴様の妹も似た感じなんだろうな」


「っ!貴様ぁ!」


それはもはや反射だった、私は敵を切りつけていた。敵の頬から血が出る、敵は私の頭を踏みつけると髪を引っ張り、顔をこちらに向けさせた


「不意打ちとはいえ、この俺に傷を負わすとはな・・・本当はこのままお前の頭を壊してもいいところだが・・・なんせ俺に傷を負わしたんだ、お前の記憶を破壊してやるよ」


すると敵は少し目を見開いた、すると段々と意識が薄れていき、視界が暗くなる。このまま意識を失えば何かを失う、そう感じたが、逆らう術はない。


「・・・・・・・ユ・・・・・ナ・・・・・」


私は最後に――――大切な・・・・・・・・誰かの名を呼んだ・・・


どさり、と目の前で吸血鬼が倒れる、彼はそれを見るとため息をつく


「ふん、なかなか面白かったよ。この玩具」


頭を軽く蹴ると、さてどこに捨てるかと悩む


「ああ、この近くの森にでも捨てておくか」


彼は吸血鬼を抱き上げるとその森へ向かう


「・・・破壊こそ創造なのだ・・・どうしてそれが分からん・・・」


彼は理解されない苛立ちを呟く

すぐ近くにある森に到着すると無造作に吸血鬼を投げ捨てた、ここには妖怪が蔓延る、ちょうどいい餌だろう。


彼が森をあとにして暫く経ったとき


「・・・ん」


彼女は目を覚ました、キョロキョロと辺りを見渡すと木々が立ち並んでいる、ここは森のようだ。

ふと異変に気がつく、名前やその他、自分に関することが思い出せないのだ。


「私は・・・?」


譫言のように呟くがダメだった、思いだそうとすれば頭痛がする。自分が誰だか分からない不安に彼女は泣き始める。その泣き声に辺りから妖怪が集まってくる、妖怪に囲まれた危機的状況に恐怖し、更に泣く。


「なんだ、吸血鬼?珍しいね」


ふと声がする、顔を上げてみると何もいない、周りに異形の妖怪がいるだけである


「私の家まで運んでて」


そんな声がすると妖怪たちは私をどこかへ運び始めた。運ばれた先は森のなかにある小さな小屋だった。なかに入れられた彼女は何をされるのかビクビクしていた。


「ああ、怖がらないで」


フッと目の前に妖怪が現れる、優しく微笑んでいる妖怪は私の傷の手当てをしている


「あ、あの・・・あなたは?」


「んー?私?私は《鵺》。ここの辺りに渡ってきた妖怪さ」


「鵺・・・」


「よし、手当て完了!怪我してたようだけど何かあったの?」


私は眠っていた以前のことを思い出そうとした、が何も思い出せない、ただ暗い虚無が広がっているようだった。


「覚えてないの?じゃあお名前は?」


「名前・・・」


「まさか・・・記憶がない?」


私は頷いた、すると鵺はあらら、と言う


「ま、いいや。よく分からないもの同士仲良くやりましょ」


鵺は私に握手を求める、私は彼女の手を握った―――暖かい。その暖かみに触れていると何か懐かしいものを思い出す。


「ユナ・・・」


「ユナ?」


「え?や、誰だろう・・・」


本当に誰なのか、大切な人だった気がするが


「ふぅん、ま、いいや。しかし吸血鬼がやられてるなんて珍しいね」


「吸血鬼・・・?」


背中の羽に触れる、自分は吸血鬼なのだと認識した。なぜ私はあの森で―――何か嫌な奴に


―――――――


「《ブラフマー》様!どうにかならないのですか!」


一人の人間が涙を流しながら言う


「ふむぅ、何とかしたいのは山々なんじゃが・・・相手が相手だからのう・・・」


ブラフマーと呼ばれた老人は髭を弄りながら言う


「ですが!早くなんとかしないと、この世界が!」


「全て壊されかねんな、じゃが奴は気が触れている、下手に刺激するのは・・・」


「ですが!時間が経てば無駄に犠牲が出ます!」


「しかし・・・創造神のワシに何が出来るのか・・・」


「それは・・・」


人間は俯く


「むう、何かアイデアを考える。ワシは暫く、そこらの森でも散歩しようかの」


森に着くとブラフマーは頬に付いた傷跡を撫でた


「さて、どうするか・・・オモイカネ殿に知恵を借りるか・・・?いや時間がない」


ふと地面を見ると足跡がある、人の足跡は森の奥へと続いているようだ


「妖怪・・・?これはまた厄介な」


放っておいて被害が出てはいけないとブラフマーはその足跡を辿っていった。すると古い物置小屋が見える、明かりが灯っているところを見るとなかに誰かいるのか


ブラフマーがその小屋に近づいたときだ。


「ヒョーヒョー」


悲しげな鳥のような鳴き声がする。


「・・・トラツグミか・・・」


しかしそんな鳥、この辺りで見た覚えはない、すると―――


そこまで思考を巡らせたときだ、何処からか竹槍が飛んでくる。ブラフマーはそれを避けると辺りを見渡す、姿はない


「・・・出てきてはどうだ、ワシは別に争いに来たわけではない。鵺よ」


次は岩が落ちてくる、しかしそれは分かっていたこと。ブラフマーはひょいと避けると小屋に向かって走る。


「待て!」


ブラフマーの目の前に一人の妖怪が現れた


「鵺がそう簡単に姿を現していいのかね」


「黙れ!あの娘を危ない目には負わせない!」


「ほう、その小屋にはそれほど大切な人が」


「そ、創造神がこんなところになんの用かしら?」


鵺は相変わらずブラフマーを睨み付けている


「そう構えるでない。ワシは争いを好まん」


「な、ならその傷はなんだ!」


ブラフマーは顔に付いた傷跡を触る


「ああ、これは少し我が儘でどうしようもない友人が付けてな」


「戦いで付いた傷跡ではないんだな」


鵺はようやく構えるのをやめた


「うむ、そうじゃ。してその小屋にいる人は怪我でもしているのではないか?」


「怪我はもう大丈夫だけど・・・」


「何かあったのか?」


「・・・記憶が・・・無いようで」


「ふむ、記憶喪失とな」


「こちらです」


ブラフマーは鵺に案内され、小屋に入る。そこには一人の吸血鬼がいた


「お・・・おお・・・貴女は!」


ブラフマーは目を見開き、吸血鬼を見る


「知っているんですか!?」


「戻ってこないと思ったら・・・まさか奴にやられたのか」


「奴・・・?」


吸血鬼は首を傾げる、彼女は以前ワシに奴に復讐すると言って・・・死んだのかと思った


「・・・あいつに・・・一発やってやりましたよ・・・」


吸血鬼はぼそりと呟く


「あ、あれ。何か思い出しそうな・・・」


吸血鬼は頭を抱える


「貴女の名前は《ユリック》。どうじゃ、何か思い出したか?」


「ユリック・・・私は・・・確か・・・・・・あいつに・・・・・」


「ああ、そうだ。復讐すると言って・・・」


その時だ、一羽の梟がブラフマーのもとに飛んでくる。その足には文が巻かれていた、ブラフマーはその文を受けとり内容を読む


「なんと・・・奴がもう動きだしたか・・・」


ブラフマーは鵺に向き直ると、少し彼女を借りるといい。連れて帰った。


「さよなら吸血鬼さん、短い間だったけどね、きっと記憶も戻るわよ」


鵺はユリックの姿が見えなくなるまで手を振った

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