『十三章 蜘蛛の糸』
スサノオらがヤマたちと戦いを繰り広げている頃―――地獄。
「裳抜けの殻、か」
地獄に一人、初老の男が一人
「しかし彼女を葬るなら今が好機・・・」
初老の男、オーディンは単身地獄に潜り込んでいた。目的はフェンリルの復活と同時に復活したヘルである。
「しかし地獄の奴らはどこへ・・・これなら《テュール》に任せるんだったな・・・」
そう言いつつオーディンはヘルがいるであろう場所へ向かう。そして一つの大きな門に辿り着く、そしてその前には狼が、間違いない、ここにヘルがいる
オーディンが門に近づくと狼は起き、唸り声を上げる。オーディンが構わず進もうとすると襲いかかってきた
「ふんっ!」
オーディンは飛びかかる狼をグングニルで防ぎ、振りほどく
「《ガルム》よ・・・相変わらず門番の仕事はするのだな」
どちらが動くか、お互いにまるで隙はない。ただ、お互いじっと見つめあっているだけなのである
ピクッ、ガルムが僅かに体を震わせた
ドッ!それをオーディンは見逃さなかった、グングニルをガルムに投げつける、グングニルはガルムを貫き、門に突き刺さる。
ガルムは息絶え、オーディンはグングニルを抜くと門を開いた。
むせかえるような血の臭い、間違いない、彼女がいる。
真っ暗な空間に蝋燭の火が灯る。目に映ったのは血の池、そこに沈められる人々、そして一人の女が佇んでいた
「あら、遅かったわね。ヤマたちはとっくに行ったわよ」
半死半生の彼女、ヘルは爪を弄りながら言った
「死に損ないが、貴様を葬りに来ただけよ」
ヘルの髪が逆立つ、顔はとても恐ろしく変わり、体は肉が落ち、骨が見える。
「いいだろう!私も貴様を殺し、地上を我が物にしたくてな!」
ヘルは氷の息吹を吐く、その息吹は軌道上の全てを凍てつかせながらオーディンに迫る、しかしオーディンは驚きもせず、グングニルを投げた。
グングニルは氷の息吹を突き破り、ヘルに突き刺さり、壁に刺さり身動きを取れなくする
そこにオーディンは蹴りを入れる、ゴキッと首の骨が折れる音がした。ガクンと頭を垂らしたヘルだったがすぐにこちらを睨み、その鋭い爪でオーディンを切り裂く。オーディンはそれを避け、避け際にグングニルを引き抜く。
「おのれオーディン!妾に傷を!」
怒り心頭のヘルはオーディンを睨む、しかしオーディンは動じない。何故ならこの戦いの勝敗は目に見えているからだ。明らかにオーディンが強い。
ヘルもそれを知っていた、明らかな力の差、絶望的な戦い。ヘルは知っていた。
「妾はヘル!地獄の女王よ!」
そう高らかに叫ぶ、しかしドスッとグングニルが胸を貫く、だんだんと視界が狭くなるのが分かる。ヘルはその場に倒れ、絶命した
「完全なる死だ、よかったな、ヘルよ」
オーディンはグングニルを引き抜く、そしてヘルの亡骸を蹴る。ゴロゴロと転がった亡骸は血の池に沈んでいく。
そして、池の中央辺りににある、蜘蛛の糸を掴むと登り始めた。
暫く登ると地上に出た、明るい。どうやら太陽が戻ってきたようだ。しかし地獄の奴らはどこへ行ったのか、結局分からなかった、ただヘルが死んだことで戻ってくるかもしれん。帰るか。
「残すはあと一体・・・」
そう呟き、その場を後にした