『十章 迫る危険』
酒呑童子の拳がスサノオの鼻の前で止まる。
声がしたほうを見てみるとそこには一人の赤と白の袴を着た少女が一人。
「その方をここで殺させるわけにはいきませんよ!」
少女は木刀で酒呑童子に殴りかかる、酒呑童子はそれを拳で打ち返しながら後退する。
十分間合いが開いたころに少女はスサノオのもとに帰ってくる
「なんだお前は、見たところ人間だが・・・」
「私は鶴野 清香!あなたがスサノオさんですね?」
「ああ、そうだが、しかし何をするつもりだ?人間が鬼に敵うとでもいうのか?」
「分かりません!ただ私は多少妖怪に対抗する能力はありますよ」
数枚の札を少女は取り出し、木刀に付ける
「この木刀は悪しきものを祓います!」
そういい酒呑童子に向かって走り出す
「何を考えてる?人間!」
酒呑童子が拳を地面に叩きつける、すると土が盛り上がり、清香を空へ打ち上げる。
すぐに酒呑童子は追い討ちをかけるように跳ぶ
「堕ちろ!」
拳が清香に当たる時
バチ!
静電気に触れたような音がなり、酒呑童子は飛び退く
「結界・・・?妙な技を」
少し焦げた拳を撫でる
「へへっ、婆ちゃんほどじゃないけどね!これぐらい出来るよ!」
得意気に言ってみせる
「無茶するな!命が惜しくないのか!」
スサノオは叱るが
「私はスサノオさんが死ぬのが怖いんですよ」
なんだこの娘は、とスサノオは呆れた
「まぁいいか・・・君の強さも分かったし、今は帰るとしよう」
酒呑童子はめんどくさそうにその場を立ち去る
「おい!撤退や!帰るで!」
茨木童子は鬼に命令し、酒を片付けて酒呑童子のあとを追いかける。
「追い返しましたね・・・」
清香はふぅ、とため息
「ああ、死を覚悟してたがな」
「そうだ、アマツが攻め込んだとき。なんだか様子がおかしかったけど大丈夫なんですか?」
「ああ、いろいろあったが今はな・・・なぜアマツのことを?お前は村にいたか?」
ギクッと清香はなる。アマツをスサノオにけしかけたのは私自身、それがバレれば厄介なことに
「た、たまたま見たんです!」
とっさに嘘をつく、こうでもしなければ次は失敗する。
次は・・・あの方たちをこの方と戦わせて・・・
「どうした、戻らないのか?」
少し遠くにいるスサノオが振り返り言う
「あ、あ!行きますよ!」
清香はそのあとを追いかける。
あの方たちとスサノオさん・・・どっちが上かしら・・・
――――――――――
「しかし・・・西方に来いと清香なる女は何を考えている・・・」
男が清香から来た文を読み、言う
「さぁね、でも君が考えてる計画ならどちらにしろ西方に行くでしょ?」
小さな子どもが鉄で出来た輪を布で磨いている
「まぁ・・・それもそうか。では行くか、我々“諏訪”の強さを世に示すために」
「やれやれ、私の土地を奪っておいてまだやるの」
「まぁそう言うな《モリヤ》よ。ぬしこそそんなことを言うなら私から奪い返してみせよ」
「勝ち目のない戦いはやだよ」
モリヤは悔しそうに顔を背ける
「準備はよいな?慌てることはない。ゆっくり確実に西方に向かおうぞ」
――――――――
「へぇ、清香ちゃんかー」
アマテラスは清香はまじまじと見つめる
「あ、あなたがあのアマテラス様・・・!」
尊敬の眼差しを向ける、そこまで天姉は有名だったか・・・?
「あなたは何をしてる人なの?妙な術を使うそうだけど」
「えっと、私はその、巫女をやってるんです」
いつの日か聞いたな、北の方に巫女という聞き慣れない職業・・・こいつのことか
「巫女?知らないわね・・・」
アマテラスは頭を抱える
「私は知ってるが」
オモイカネは得意気に威張る
「え・・・なぜ?」
まるで知らないのが当たり前のような反応だ、俺も知らないが
「私はオモイカネだよ?」
「あ、ああ!なるほど」
なにがなるほどなのか理解出来なかった。
確かにオモイカネは知識人だ、ただ彼女がその知識をどこで得たものかは誰も知らない
「しかし、どうするんだ?」
スサノオはアマテラスに聞く
「え?うちに住まわせるわよ、可愛いし、なんだか懐かしいし」
なにが懐かしいのか分からないが・・・
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
「・・・何を企んでるか知らないけど、アマテラスだけには危害を加えないでね?」
オモイカネが清香に耳打ちをする。
清香は恐怖した、まさかなにかを企んでいることがバレているとは・・・
オモイカネはニッコリと笑い、その場を立ち去った
「あはは・・・」
清香は乾いた笑いしか出来なかった、恐ろしく怖い、神の怒りがこれほどまでに怖いとは・・・婆ちゃんの怒りのほうがマシだと清香は思った。
「しかし、巫女なんて聞いたことがないな・・・どこから来たんだ?」
「う・・・それは・・・」
私は確かにどこからか来た、それを言ってもいいのか、悩む
「ええ、私はその・・・」
「スサノオ!ご飯まだー?」
アマテラスがスサノオに抱き着く
「分かった!作るから!」
そう言い二人は家に戻る、清香はそのあとを追い掛ける。故郷を少し思い出した、幼馴染みのあの子に吸血鬼・・・
それより今はあの方たちがこちらに向かっているはず、どちらが私に相応しいか・・・相応しいほうを連れて帰れば婆ちゃんも・・・