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黒い森

黒い森――それは、王都へ向かう旅の中で最大の難所。

闇に包まれた道の中、アンナたち一行は魔物の群れに襲われる。

絶望的な状況の中、聖女アンナが見せた“光”とは――?

神秘と緊張が交錯する「アンナの旅」第8話、ここに開幕。

 「ゴトッ」

 重たい音を立てて、馬車がゆっくりと動き出した。


 黒い森――。

 その名のとおり、昼でも光が届かない不気味な森。


「いよいよですね……。大丈夫でしょうか?」

 トリーが不安げにアンナを見る。

「心配はいりません。予定どおり進みます」

 アンナは落ち着いた声で答えた。

「でも……魔物とか、賊とか出たら……」

「そのための護衛ですよ。任せておけばいいんです」

 アンナは微笑みながら、さらりと言った。

「……あの事、忘れないでね」

 トリーはうなずく。

「はい。私もしっかりしなきゃ」

「トリーは、いつも通りでいいんですよ」


 その会話を聞いていた三聖女――サンディ、ベル、ノル。

 みんな顔がこわばっていた。


 ケルンは弓を持ち、外の様子を見張っている。

 森は暗く、道はでこぼこ。

 馬車が「ガタン!」と大きく跳ねた。

「きゃっ!」

 サンディが悲鳴を上げる。

「大丈夫よ、サンディ」

 アンナが優しく声をかけた。

 でもその直後――「ドンッ!」

「きゃーっ!」

 今度はベルの番だった。

「落ち着いて、ベル」

「は、はい……」


 アンナは苦笑いを浮かべる。

(若い聖女たちには、こういう旅は初めてですものね)


 そんな時、外で稲光が走った。

 「ピカッ!」と光り、「ドロォォン!」と雷鳴が轟く。

「ひゃっ!」ノルが飛び上がる。

「静かに、ノル」

 トリーが静かに言った。

 その落ち着いた様子に、アンナは心の中で微笑む。

(トリーも、ずいぶん成長しましたね)


 雨が降る前の気配。

 空は暗く、森は沈黙している。


(……来るわね)

 アンナはそう思い、口の端を上げた。

 その笑みを見たトリーが、目を丸くする。

(お嬢様、こんな時に笑ってる……?)


「トリー、安心して。あなたには期待しています」

「お嬢様……私は何をすれば?」

「もう少しすれば分かります」


 その時――前の馬車から叫び声。

「前方がおかしい! 襲撃かもしれん!」クロノ司祭の声だ。

(やっぱり)

 アンナはすっと立ち上がる。


 闇の奥から、うなり声。

「ぐるるるるる……」

 次の瞬間――「ガアアァッ!」

 黒い影が跳ね出した。無数の目が光っている。


「魔物だ!」護衛の一人が叫ぶ。


 剣が抜かれ、火花が散る。

 ケルンは馬車の上で弓を構えた。だが、敵の動きが速い。

「ちっ……速すぎる!」

 矢は外れ、魔物たちは群れで襲いかかる。


 商人ルーツは馬車の中で頭を抱え、ガタガタ震えていた。

 クロノ司祭も必死にメイスを振るうが、形にならない。

 護衛の何人かが傷つき、悲鳴があがる。


 その光景を見て、アンナは決意した。


「トリー、聖女たち全員に伝えて!」

「はい!」

「みんな、目を閉じて祈りを捧げてください。――私に」

「アンナ様?」

「いいですか? 私が止めるまで、何があっても祈りを続けて」


 アンナの声には、命令というより“力”があった。

 誰も逆らえなかった。


 アンナは馬車の中央に膝をつき、一本の矢を両手で捧げる。

 口から、不思議な響きの言葉が流れた。


 聖女たちが祈りを合わせた瞬間――

 光が生まれた。

 淡く、やがて強く。馬車の中を満たし、壁を突き抜ける。


「……アンナ様?」トリーが目を開ける。

 そこにはアンナだけが立っていた。

 祈りを続けると、光はさらに強くなる。


「ケルン! 私を引き上げて!」

 アンナは扉を開け、手を伸ばした。

「なっ!? 了解!」

 ケルンはその手を掴み、一気にアンナを屋根へ引き上げる。


 屋根の上――二人の姿を包むように、光が塔のように立ち上がった。


「この矢を、私が示す方向へ撃ってください」

 アンナは静かに言い、指を伸ばす。

「そこが――奴らの本体です」

 ケルンが息を呑み、弓を構えた。

「了解……!」


 アンナが小さく呟く。不思議な言葉。

 矢が光を帯び、震え始める。


「撃て!」

 ケルンは弓を引き絞り、放った。

「キュイイイィィィィン――!」


 音を裂いて、矢が飛ぶ。

 闇を貫き、稲光と交差する。


「ぎゃああああああ!」

 闇の奥で、魔物の悲鳴が響いた。


 その瞬間、すべての魔物が動きを止め――森の奥へ逃げていった。


 雲が割れ、光が差し込む。

 鳥の声が戻る。


「……終わりました」

 アンナは静かに言った。


 ケルンは膝をつき、頭を垂れる。

「アンナ様……」

 その姿は、まるで神話の中の存在のようだった。


「もう大丈夫。降ろしてください。――ありがとう、あなたの力が必要でした」

 アンナが微笑む。

 ケルンは黙ってうなずき、アンナを支えて下へ降ろす。


 馬車に戻ったアンナは、皆の前に立った。

「四聖女のみなさん、ありがとう。助かりました」

 そして柔らかく笑う。

「今見たことは、……秘密ですよ?」


 誰も言葉を発せなかった。

 ただ、光の残響だけが、森の奥で揺れていた。


「さあ、負傷者の手当てをしましょう」

 アンナの声に、皆がゆっくりと動き出す。


 嵐のあと、黒い森に――希望の光が射していた。

第8話では、ついにアンナが「真の力」を見せる場面となりました。

これまで旅の仲間を導いてきた彼女の信念と、

その奥に秘められた“光”の正体が少しずつ姿を現します。


この章から、物語は“聖女たちの覚醒”と“王国の闇”という

二つの大きなテーマへと展開していきます。

次回、第9話 「国境の町」

新たな光が、旅の先に差し込みます。

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