表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/27

ルーツ

国境の森――それは、東の聖女たちが王都へ向かう旅の中で、最も危険と恐れられる場所。

霧深く、盗賊や魔物が潜むという伝説が絶えない地。

そしてその朝、アンナたちはその森の入口に立っていた。

新たな仲間を加え、未知なる闇へと歩み出す――。

静けさの中に、運命の歯車がゆっくりと回り始める。

五日目の朝が訪れた。

 冷えた空気の中、白い息が馬の鼻先から立ちのぼる。今日から、ついに国境の森へ入る日だ。

 この森は、山がちな地形の間を抜けていく長い道で、魔物や盗賊が出没すると言われている。だからこそ、護衛たちが同行しているのだった。


 出発の準備をしていると、一人の男がクロノ司祭に声をかけた。

 「初めてお目にかかります。わたしはルーツと申します。旅の商人をしております」


 「旅の商人の方ですか。どうされましたか?」

 クロノ司祭は、荷をまとめていた手を止め、穏やかに応じる。


 「実はお願いがありまして……。この森を越えて王城へ向かわれると伺いました。もしよければ、皆さんの一行に同行させていただけないでしょうか?」


 男は頭を下げた。見たところ、旅の疲れが顔に浮かんでいるが、怪しい様子はない。

 「王城からこの東の地区に商用で来ておりましたが、仕事が終わったので帰るところです。しかし、この境の森は一人では危険と聞きまして……剣などはさっぱりでして」

 と苦笑しながら言う。


 クロノ司祭は少し考えた後、うなずいた。

 「なるほど。お名前はルーツと言いましたね。たしか、その名は王城の商会でも聞いたことがありますが……」

 「はい、その通りです」

 ルーツは懐から木製の札を取り出し、商会ギルドの印を見せた。


 「ケルン、どう思う?」とクロノ司祭は振り向く。

 「この村の人にも聞いたが、商人で間違いないようだ。危険な森だし、仲間が一人増えるのは悪くないと思います」

 「そうか……ならば、馬車の隅にでも乗ってもらおう」


 「助かりました!」

 ルーツは安堵の笑みを浮かべ、深々と頭を下げた。その表情には、心からの安堵が見て取れた。


 荷の積み込みが終わり、聖女たちも箱馬車に乗り込む。

 アンナはケルンと短く何かを話していたが、その内容までは誰も聞き取れなかった。

 彼女の瞳は、これから向かう森の奥を静かに見つめている。


 隊列が整う。先頭には護衛の馬車。続いて、アンナたち四聖女とトリーが乗る箱馬車。

 御者台にはケルンが弓を構え、慎重に周囲を見渡している。

 そしてクロノ司祭は護衛たちとともに先行の馬車に乗り込んだ。


 「――さあ、出発だ!」

 誰かの声が響くと、馬の嘶きがそれに応えた。

 蹄の音が土を打ち、箱馬車がゆっくりと動き出す。


 薄い霧が流れ、森の影が彼らを飲み込む。

 それは、長い旅路の中でもっとも試される一日となる、静かな幕開けだった。

国境の森――それは、ただの地理的な境界ではなく、

それぞれの心の中にある「恐れ」と「信頼」を映し出す鏡でもあります。


新たに加わった商人ルーツ。

彼は果たして幸運の導き手なのか、それとも運命が差し向けた試練なのか。


次回、「森の影、そして弓の光」

――闇の中で放たれる一矢が、彼らの行く末を変える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ