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慰労会

王城の競技会が終わり、聖女たちは東地区の宿舎へと戻った。

勝敗が決し、笑いと静寂が交錯する晩餐の中で――誰も知らぬ「奇跡の余韻」が、静かに世界を変えはじめていた。

みなさん、競技会おつかれさまでした。簡単ですが、お食事を用意いたしました。どうぞお召し上がりください。」


クロノ司祭の穏やかな声が広間に響く。

白い卓布の上には温かなスープと焼きたてのパン、そして果実を添えた料理が並ぶ。

その隣には、金色の箱に詰められた豪華なお菓子――メラノ侯爵からの贈り物だった。


「聖女様方へ、侯爵様より特別なお菓子をお送りいただきました。デンド執事様、ありがとうございます。」


クロノ司祭が告げ、食事会は穏やかに始まる。


「メラノ侯爵は明日の表彰式の準備でお越しになれませんが、よろしくとのことです。」

「成績は――第一位、北部。第二位、南部。そして、東地区は第三位となりました。」


付き添い役のデント執事が報告する。

ケルンは肩をすくめ、苦笑した。


「うちの秘密兵器“薬ポーション”も、もう一歩だったな。」

「ええ、あんなものがあるとは。倒れたときはどうなるかと、肝が冷えましたよ。」

デント執事は目を細め、回想に浸る。


クロノ司祭は、静かに頷いた。

「しかし、前回の最下位から一つ順位を上げられた。それだけでも大きな成果です。」


そして司祭は続ける。

「明日の表彰式では、一位から三位まで残った聖女様に、王よりお言葉が贈られるとのことです。メラノ侯爵も面目が立ち、皆さまに感謝しておられます。」


その間、肝心の聖女四人と見習い聖女トリーは――無言だった。

侯爵から贈られた菓子を黙々と口に運びながら、互いに視線を交わす。


彼女たちは知っていたのだ。

真の一位は――自分たちだったことを。

だがアンナが言った。「それは黙っていてください」と。


北部のアルク大公も、南部のメーセン宰相も、すでに“何か”を察していた。

そして、今日の出来事に気づいた者は、他にもいた。


宴は進み、笑い声が満ちる。

その中で、末席に座っていた商人ルーツが口を開いた。


「今回、最も走り回らせていただいたのは私ですが……一つお願いがありまして。」

クロノ司祭が応じる。「なんでしょう?」


「例の薬ポーション――私の商会で作らせていただけませんか?」


商人らしい抜け目のない提案だった。

クロノは少し驚き、アンナを見る。


「アンナ様、どうされますか?」

「構いませんよ。作り方はお教えします。」


その言葉にケルンがすかさず割り込む。

「おいおい、あれは今回の躍進の立役者だぞ? 利益の一部はアンナ様にも回せよ。あの“弓の聖女のお守り”だって、今すごく売れてるんだろ。」


「わかってますって!」とルーツは笑い、「利益の配分、きちんとしますよ。ここの人たちと組むと、いつも大当たりですからね。」


クロノ司祭がまとめる。

「その件は私にお任せください。侯爵様への分配も含め、皆で協議いたしましょう。」


こうして後に――この製品はアンナ、メラノ侯爵、ルーツ商会へと大きな利益をもたらすことになる。


アンナは静かに心の中で思う。

(ルーツのところで作っても、あの薬ほどの効果は出ないでしょう。でも……劣化版でも、きっと多くの人を救うはずです。)

(あの薬の真の核心には――秘密があるのだから。)


そのころ、競技会の陰で――別の奇跡が芽吹いていた。


病院で治療に当たっていた聖女たちが、次々に声を上げたのだ。


「おかしいわ……」

「なぜ、こんなに治療がうまくいくの?」

「体の奥から、光のような力が湧いてくる……!」


患者たちは驚愕し、涙を流した。

「痛みが消えていく……まるで光に包まれているようだ!」


聖女たちは息をのんだ。

「空気が変わっている」「まわりが明るい」「やさしい気配に満たされている」


その感覚はしばし続き、そして静かに消えていった。


報告を受けたナターシャ聖女――病院長であり、競技会の審査員でもあった彼女は、驚愕した。

その発生した時間と、三地区の聖女が治療を行っていた時間とが、完全に重なっていたのだ。


「……あの時、病院全体を……」


彼女の胸に去来するのは、かつて弟を救ったあの少女の声であった。

『聖女は、苦しむ人を助けるのが仕事ですから。』


ナターシャは理解する。

その瞬間、病院を覆っていたのは“光の宝塔”――アンナの導きによる連環の奇跡であったのだと。


思考ではなく、感受である。

感じ、観る、その瞬間に立ち会うこと。


アンナが三聖女に教えたのは、ただひとつ。

――「気づき続けること」。


呼吸も身体も、今この瞬間に。

その積み重ねが“月輪”を呼び、光はひとつとなった。


それは、アンナひとりの力ではない。

無数の心が呼応して生まれた、連鎖の奇跡であった。


宴は終わり、男たちの笑声が遠くでこだまする。

聖女たちは席を立ち、夜風に導かれるようにテラスへ出た。


澄みきった夜空、星々の瞬き。

白磁の杯に注がれた茶の香が、静かに流れていく。


光の余韻は、なおも彼女たちの胸に宿っていた。


――そして夜は、深く、優しく降りていった。

この回でアンナの“教え”が他の聖女たちへ広がり、物語の世界がひとつの光で結ばれます。

そして次回、競技会の真実に気がつき始めます。

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