表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

聖女とは

――女神の加護は、苦しむ者の傍に宿る。

東地区代表の四聖女たちは、これまで幾度もの試練を乗り越えてきた。

だが、今回の“癒やしの儀”こそが真の試練であり、彼女たちの中に眠る「聖女とは何か」という答えを問うものになる。

終わった瞬間、四人の聖女は同時にグラリと身体を揺らした。


 お下げ髪のサンディが膝をつき、そのまま床に崩れ落ちる。

 ベルもノルも支えを失ってうずくまり、アンナだけが壁に片手をつき、なんとか倒れまいと踏ん張っていた。


「大丈夫ですか!?」

 駆け寄ったトリーが、サンディの肩を抱き起こす。

 アンナもふらつきながら、ベルとノルの肩を抱き寄せた。


「もう……こんなことって……」

 ベルの声は途切れ、空気の中に消えていく。


 その様子を見ていた担当聖女や医師たちが慌ただしく集まってきた。

 患者たちの容体は――奇跡のように安定していた。

「症状が好転しています!」「脈も戻りました、間に合いました!」

 安堵の声が次々と上がる。


「選ばれた聖女様たちは本当にすごい……」

「一人じゃ無理でも、四人の力を合わせれば結果を出すなんて」

「これじゃあ、力の比較なんてできないわね」


 そんな声が飛び交う中、アンナは身体を支えながら、はっきりとした声で言った。


「――聖女は、苦しむ人を助けるためにいるんです。それこそが、女神様が最も望まれていることです」


 静まり返る空間。

 その一言に、多くの聖女たちは言葉を失った。

 ある者は息を呑み、ある者は目を伏せ、そしてある者は――涙ぐんだ。

 競技よりも尊い“本当の使命”を思い出したのだ。


「でも……あの四人は本当に成し遂げたのね」

「四人でやるなんて考えもしなかったわ」

「同じことをやれと言われても、わたしたちには無理よ……」

 羨望と戸惑いの声が混ざり合う。


「彼女たちの治療がなければ、患者は助からなかったでしょう」

 主任医師が静かに告げた。

「症状は安定しています。奇跡の回復です」

 その言葉に誰もが息を呑んだ。


 四人の聖女は、疲労の極みにあった。

 トリーと病院の聖女たちに支えられ、ふらふらと東地区控室へ戻っていく。


 部屋に戻ると、椅子に座るなり三聖女はどさりと崩れ落ちた。


「いや~疲れた、もうダメ」

「立つのもつらいわ……」

「でも、アンナってほんとすごいね。あんな方法、誰も思いつかないよ」


「伝承に、こういう方法があると書かれていましたから」

 アンナは淡々と答える。

「それも……伝承の技、なのね」

 サンディの声には力がなかった。


 彼女たちはまだ知らない。

 今の治療を通じて、彼女たち自身の中に“本来の力”が目覚め始めていることを。

 アンナ一人では到底成し得なかった奇跡――それは四人の絆が呼び起こした光だった。


 そんな中、トリーが小走りで部屋を出ていき、しばらくして戻ってきた。


「どうぞ入ってください」

 ベルがか細い声で答えると、トリーがドアを開け、銀の盆に白い飲み物を載せて入ってきた。


「トリー、それを取ってきてくれたのね」

「はい。念のために用意しておいたものです」

「これは……間に合ったわ……」

「ええ、なんとか出来ています」


「トリーさんがいてくれて助かります」ベルは微笑んだ。

「昨日から準備してもらっていました」アンナが続けると、トリーは静かに並べていった。


「皆さん、相当力を使われましたから。これは回復用の薬です」


「えっ、ポーション!? あの激マズの!?」

「身体が焼けるように熱くなるやつね」

「もう飲みたくないわ」

 三人は顔をしかめる。


 しかし、目の前の液体は純白に透き通っていた。


 アンナは、ほっと微笑んだ。

(――間に合ったようね)


「明日もあります。回復しなければ次に進めません。さあ、飲みましょう」


「えー……」

 渋る三人の前で、アンナは自ら一杯を取り、一気に飲み干した。


「ほら、苦くも痛くもありません。それどころか、力が蘇ってきます」


 立ち上がり、両腕を広げて見せる。

 本来なら立つことすら不可能なはずの疲労が、跡形もない。


「……じゃあ、少しだけ」

 サンディがおずおずと手を伸ばし、白い液を口に含む。


 その瞬間、目が見開かれた。

「ファーッ! なにこれ、力がどんどん湧いてくる!」


 その顔に、再び血色が戻る。

 ベルもノルも思わずコップに手を伸ばし、白い液体を口にした。


「おいしい!」

「本当においしい……トリー聖女、ありがとう」


「本来の薬はこうあるべきなのです」アンナは微笑んだ。


 誰も気づいていない。

 これを取り入れた瞬間から――三聖女の中の聖なる力は覚醒の段階に入った。

 それは女神の加護そのものであり、彼女たちを“真の聖女”へと導く印だった。


 やがて、疲労の中にも微かな光が満ちていく。

 それは、まだ自分たちが受け取った“贈り物”の意味を知らない者たちの、静かな夜明けだった。


 その姿を見たアンナは、静かに目を閉じた。

 その瞳の奥には、誰にも見えない光――神々の微笑が宿っていた。

今回のテーマは「聖女とは何か」。

競うためではなく、救うために生きる――その根源的な信念を描きました。

アンナの導きによって、他の三聖女もその道に踏み出していきます。


次回は、この行為が競技会を揺るがす波紋を呼び、アンナの正体に一歩近づく回となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ