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王城

いよいよ物語は王都へ。

旅の終着点にして、新たな試練の幕開け。

聖女アンナの姿に、貴族たちの野望と祈りが交差する。

運命の歯車は、静かに、しかし確かに動き出していた。

王城まで、あと一日。


 その朝、メラノ侯爵はいつものように上質な朝食を前にしていた。

テーブルの脇には、長年仕えるデント執事が控えている。


「昨晩の件だが――あの流れで良かったと思うかね?」

「メラノ様、何かお考えがあるようですね」

デントは穏やかに微笑んだ。「昔のイタズラを思いつかれた時と、同じお顔をされておりますから」


 侯爵は思わず苦笑した。

「いやはや、デントには敵わんな。隠し事はできない」

「幼少の頃より拝見しておりますので」


 メラノ家の屋敷に朝の光が差し込む。

銀器のきらめきとともに、政治の香りを帯びた会話が続いた。


「今回の競技会は、思った以上に重要になる。北部は王妃派、南部は宰相派。聖女を通じて勢力が分かれている。教会もまた、それを快く思わぬ者が多い」

「だから、昨晩はメント司祭を呼ばれたのですね」

「そうだ。そして――」侯爵は少し声を落とした。「東地区の聖女、アンナ。あの受け答え、只者ではないと思わんか」

「確かに。従者のトリー殿にも、何か品格を感じました」


「最初は後援のつもりだった。だが……彼女なら、この競技会に一石を投じられるかもしれん」

「坊ちゃまは言い出したら止まりませんから」

「ふふ、これは投資だよ。アンナ聖女に。失敗しても痛くはない。だが、もし化けたら――王国の二大派閥に割って入る鍵になる」


 デントは小さく笑い、深々と一礼した。

「では、坊ちゃまの“悪戯”の後始末、今回も私にお任せを」

「頼んだぞ。動きは慎重に。まずは様子を見る」

「承知いたしました」


 こうして、侯爵の朝食は終わりを告げた。


 そのころ、聖女アンナたちの宿では――。


 従者のトリーは早くから起きていた。

ベッドの上では、まだアンナが静かな寝息を立てている。

(お疲れでしょうし、もう少し寝かせてあげましょう)


 部屋を出ると、廊下でクロノ司祭が待っていた。

「おはようございます。今日は良い天気ですよ。散歩でもどうですか?」

「はい、ぜひ!」とトリーは明るく答えた。


 庭園には、春の名残をとどめる花々が咲き乱れていた。

黄色、紫、紅――花弁の香りが風に溶ける。

二人は並んで歩き、やがて白いベンチに腰かける。


「アンナ聖女、昨晩の会食では見事な対応でしたね」

「はい。でも、かなり無理をされていました。いつものお嬢様と違って……」

「変わられた、ですか」

「ええ。まるで何か“大きな役目”を背負われたように。けれど、甘いものが好きなのは変わりませんけどね」


 トリーの笑みに、クロノ司祭は目を細めた。

「あなたのような従者がそばにいてくだされば、アンナ聖女も安心でしょう」

「はい。どんなに変わられても、私はお嬢様についていきます」


 そのとき、呼び声が響いた。

「朝食のご用意ができました!」


 二人は立ち上がり、朝の光の中を歩き出す。


 食堂にはアンナと三人の聖女が揃っていた。

「おはようございます」

「おはようございます!」

朝の挨拶が重なり、柔らかな空気が流れる。


 食後、いよいよ王城へ出発の時が来た。


 ケルンが馬車を確認しながら言う。

「馬も新しくしてもらえた。これは助かる」

 デント執事からは、昨夜好評だった焼き菓子が届けられた。

 甘い香りが旅の最後を彩る。


 王都への道は広く、美しい石畳が続く。

 通りには商人や兵士、貴族たちが行き交い、王国の息づかいが感じられた。

 昼に小休止をとり、午後も順調に進む。


 そして――。


 夕刻、空が茜に染まるころ、遠くに王城の尖塔が見えた。

 金と白の旗が風にはためき、その下に広がる大聖堂が光を受けて輝いている。


「あれが開会式の大聖堂ですよ」クロノ司祭が指差した。

アンナは息を呑み、胸の前でそっと手を合わせる。


 その姿は、まるで祈りそのものだった。


 馬車が城門をくぐると、巨大な建築群が並ぶ王都の中枢が現れた。

高い天井、聖堂の尖塔、光を受けて白く輝く柱――。

 聖女たちは言葉を失った。


 こうして、長い旅路は終わりを告げる。

 だが、真の物語は――ここから始まるのだった。

第十四話では、ついに舞台が王都へと移ります。

旅の終わりと新たな試練のはじまり。

メラノ侯爵とアンナの邂逅は、ただの偶然ではありません。

運命に導かれる者たちの思惑が、ひとつの中心に収束していきます。

次章、聖女達の覚醒と陰謀の幕が開きます。

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