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第5話 小さな奇跡と、仕組まれた罠

「真希ちゃんもユーエンくんも、気をつけていってらっしゃいね。

ノエル坊やは、私とお留守よ」


神官長の執務室に忍び込んだ次の日。

私とユーエンさんは、茶色い髪の少女を探すことになった。


「カレンさん、すみません。ノエルのこと、よろしくお願いします」

ユーエンさんが、カレンさんに軽く頭を下げている。


ユーエンさんって、ぜんぜん偉そうにしてない。

言葉も、態度もすごく丁寧。

同じ王子様でも、こうも違うかなぁ……。

誰とは言わないけどさ。


「任せてちょうだい。お世話も、警護もバッチリよ」

カレンさんは、立派な二の腕の力こぶを見せつけてウインクを飛ばした。


「ユーエンさん、心配いらないよ。ほら、カレンさんから母性と勇ましさが溢れ出てるでしょ?」


「あら、真希ちゃん、わかってるじゃない」


「それじゃ、行って来るね」


私の背中に向かって、カレンさんの声が飛んできた。


「知らない人について行ったらダメよ!

あと、落ちてるお菓子は食べたらダメだからね。

それと、暗くなる前に帰るのよ!」


さぁ出発!って意気込んでいるところに、この呼びかけ。

思わず躓きそうになった。


「もぅ、いくつだと思ってるの! いらぬ心配だから!」


「だって真希ちゃん、知らないおじさんについて行ったりしたことあるし。

動物園の餌やり体験は、動物にあげる前に自分で食べてたでしょ。

それに、遊びに夢中で帰ってこないこともあったじゃない?」


目が笑ってるよ、カレンさん!

揶揄ってるでしょ!


「そんな昔のこと、忘れたよ」

懐かしすぎて、笑ってた。



この世界に来て初めての外出と、人生初の馬車にワクワクしてる。

なんだかちょっと旅行みたい。


そういえば昔、カレンさんと旅行したなぁ。

あの時も初めての列車が嬉しくて、ずっと窓に張り付いてたらカレンさんに笑われたっけ。


「街の建物は、石造りなんだ……」

馬車の窓から見える映画のセットのような風景に、思わず溢れた言葉。


「私には見慣れた街中も、真希さんには新鮮に映るんでしょうね」


「そうだね。あぁやっぱり、ここは違う世界なんだって実感してるところ。

そういえば今は、どこに向かってるの?」


現在地を確認したのか、窓の外を見たユーエンさん。

視線を戻すと、まっすぐに私を見た。


「頭に浮かんだのは、少女と子どもたちですよね?」


「そう、結構人数いたと思う」


「確証はありませんが、孤児院じゃないかと思うんです」


「言われてみれば、そんな気がするかも」


あの時浮かんだ映像を思い返してみる。

最初に浮かぶのは、笑顔の少女と子どもたち。

静かに目を閉じて、他に何もなかったかな?って記憶を探った。


すると霧が晴れるように、背後の風景が色を取り戻した。


「あっ! そういえば、子どもたちの少し後ろに、白い教会のような建物があったんだ!」


「預言ですか? その白い教会は?」


「いや、違うよ。神様の声なんて聞こえないから。

うまく説明できないんだけど、勝手に頭の中に流れ込んでくる感じ。

うーん……白昼夢? かもしれないよ。だから、そんなに期待しないでほしいな」


「たとえそれが預言でなくても、あなたの不思議な力に賭けてみたい。

あなたの頭に浮かんだノエルは笑っていたんでしょ?

それって、笑えるくらい元気になってるってことですよね?

呪いは対処のしようがないんです。

……少しでもノエルを救う可能性があるなら……」


ユーエンさんの真剣な眼差しに、「預言じゃないから」って言い出せなかった。


御者に目的地を伝えて戻ってきたユーエンさんは、持っていた地図を広げて「ここに行きます」と指をさす。


「わかったような……、わかんないような……」

曖昧な返事に、ユーエンさんが首を傾げた。


「いや、異世界の地図見てもさ、現在地も目的地までの距離もわからないからね」


「あぁ、そうですよね。すみません。ここから三十分くらいの場所に行く予定です」


重たかった空気が少しだけ緩んだような気がして、ちょっとホッとした。



「っああ! ここだ……」


頭の中の景色と寸分違わず、同じ風景が目の前に現れた。


どういうこと? 本当にあったなんて……。

奇妙な体験に、心臓がバクバクする。


神様の声なんて聞こえてない。

それじゃ、なに? 起きてるのに予知夢?

いや、起きてるんだから夢じゃないし。


軽くパニックになってる私に、ユーエンさんが声をかけてきた。


「真希さん、大丈夫ですか? 顔色が優れませんよ」


「だ、大丈夫、と思う」


「教会の裏手に回ろうと思うのですが、歩けそうですか?」

気遣わしげな声のユーエンさんに、頷いて返事をした。



裏庭に差し掛かった時、一人の少女の後ろ姿が目に飛び込んだ。

それも、茶色い髪の。


「あっ」と声を出しそうになったけど、慌てて飲み込む。

だって、その子、なんだか淡く光ってるんだもん。


「ほら、気をつけるんだよ。もう、怪我しちゃダメよ」


小さな声の後に、少女の手から飛び立つ小鳥。


ハッと呑む息の音が届いたのだろう。

目を見開いた少女が、勢いよく振り返った。


目が合った途端、慌てて走り出そうとするから、思わず「待って!」って叫んじゃった。


一瞬足が止まったから、急いで声を投げた。


「私、真希っていいます。あなたを探してました!」


我ながら、なんと突拍子もない挨拶だろうって思う。

でも、他に何て言う?


「私の頭の中にね、急にこの場所と、あなたが出てきたんだ。

何でなのかは、わかんない。

でも、本当にこの場所があって、あなたもいた。

うまく説明できないけど、話がしたい……な」


自分でも、何を言ってるのかよくわかんない。

でも、ちゃんと話をしないといけない気がして。

お願い……伝わって。


「私のこと、怖くないの? 今、見えてたでしょ?」


「えっ? 何か怖いことあった?

あなたが、ちょっとだけ光ったようには見えたけど、それのこと?」


「……みんなこの力見ると、『化け物』って言って離れていくから」


悲しそうに、少女の顔が歪んだ。


無意識に少女の元へ足が進み出す。

近づく私に、驚いた表情で固まる少女に笑いかけた。


「なんで化け物なの?

たぶん……あなたはあの小鳥を元気にしたんでしょ?

それのどこが怖いこと?

むしろすごいことじゃない!」


えっ、なんで泣いてるの?

ダメなこと言った?


いや、違うな。

この子はずっと否定されてきたんだ……。

珍しい力だから、自分たちと違うから……。


「その力は奇跡だと思うよ。

あなただけの、特別な力なんだから。

誇っていいと思うけどなぁ。


時々いるんだよね。自分と違うものを、すぐ否定したり拒否したりする人。

何も知らないのに……まぁ、知ろうともしてないんだけど。


そういう人って、自分の価値観の中だけで生きてるから、

違うものを受け入れるって選択肢がないんだよ。


でもね、世の中そんな人ばっかりじゃないと思うよ。

ちゃんと、“人と違うところ”も個性だって、受け入れてくれる人はいるよ」


「……本当?」


「うん、本当だよ」


少女の視線が少しずつ上を向く。

上がっていく口角、下がった目尻。

それは、目元のほくろが印象的な、可愛い笑顔だった。



日が傾き始めた頃、ようやく神殿に到着した。

帰ったらカレンさんがいるって思うと、なんだか嬉しくなった。

この世界に来る前は、誰もいない部屋に帰ってたから。


ちょっとだけ早足になっていたことに気づいて、慌てて後ろを振り返る。


「マリーちゃん、疲れてない? ごめんね、私歩くの早かったよね」


あの後、少女に力を貸してほしいとお願いすると、快く引き受けてくれた。


彼女の名前はマリーちゃん。

三年前から、教会の孤児院で過ごしてたって。

それまでは親戚の叔母さんと暮らしてたんだけど、

あの力が噂になったらしい。


マリーちゃんは、転んで怪我した子どもを治してあげただけなのに、

それを見た街の人が『化け物』呼ばわりし出したみたい。

なんだか虚しいよね。



部屋の前についてノックする。

「ただいま」って開けたら、笑顔のカレンさんが待ってた。


マリーちゃんのことを紹介して、力のことをカレンさんとノエルくんに伝えたら、

二人とも「おぉ、すごい」ってなってた。

それを見たマリーちゃんが、本当に嬉しそうに笑った。


「では、手を握ってもいいですか?」

マリーちゃんが、ノエルくんの左手を両手で包んだ。

しばらくすると、あの時みたいな淡い光が漏れ出した。


光が徐々に薄れていく。

光と反対に、ノエルくんの顔には赤みが差してきた。


「たぶん、これで大丈夫だと思います」

そう言って、ゆっくり手を離す。


「ノエル、どう?」

ユーエンさんが声をかけると、しっかりと目を開けたノエルくんがスッと起き上がった。


「体が軽い。頭の痛みも、息苦しさもないよ。マリーさん、ありがとう」

そう言って、隣にいたマリーちゃんの手を取って微笑んでいる。


――あぁ、あの時、頭に浮かんだ光景と同じだ。



ドンドンッ、と突然響いたノックの音。

まだ誰も返事してないのに、いきなり扉が開けられた。


「ユーエン王子、王室資金を不正に扱ったとの密告がありました。

至急、王宮へお戻りください!」


そう言って入ってきたのは、王宮の騎士。

その後ろにチラッと見えたのは――神官長。


あぁ、仕返しのつもりね。

それじゃあ、こちらも応戦しなくちゃね。


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