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約束の木の下で ー心友ー  作者: ぽんこつ


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5/5

ときのまにまに

*この作品は「約束の木の下で―忘れられない初恋の記憶―」の派生作品です。

 先に本編「約束の木の下で ―忘れられない初恋の記憶―」

 同じく派生作品の「約束の木の下で ー風と雪の中にー」を読まれることを強くお勧めします。

*この作品だけではおそらく理解しきれない箇所があるかもしれません、予めご了承ください。

黙り込んでしまった私を美瑠は見つめたまま動かない。

ただ、その眼差しはあたたかく、あの時の透き通った海のようだった。

似ている――

どうしてだろう、彼に見られているようで、視線をテーブルに這わせて腕を抱いていた。

「私にも言えないこと……」

美瑠の声が木霊する。

ドクドクと拍動が時を刻む。

好きな人……いるよ。

でもね、これを話してしまったら、この宝物を言葉にしてしまうことで、想いや願いが、その輝きが損なわれたり、薄くなってしまうような気がして――

考えすぎかもしれないよ。

たかが初恋。

美瑠はそんなこと言わないと思うよ。

けどね、ありふれた「思い出」として扱われるのも嫌なんだ。

美瑠なら私の想いの深さを理解してくれるって分かっていても、信じていても。

それと同じ分だけ、余計に受け入れてくれないかもしれないって、不確かな思いが頭をもたげるの。

ただの子供の約束じゃんて。

それに「約束を覚えているのが私だけかもしれない」という不安もあるんだ。

だからなおさら言葉にしてしまうと、それが現実のものになっちゃう気がしてさ、怖くてたまらないんだ。

それだけ大切なんだよ、彼のこと。

私と彼との秘密の約束だから。

馬鹿なのかな……私って。


やわらかい指先が私の鼻をつまむ。

顔を上げると、美瑠はテーブルに腕を乗せて笑っていた。

「梨ー花。まあいいよ。話したくないなら、無理には聞かないよ」

「あ、うん……ごめん」

「梨花のことだから、変なことはしてないと思うけど、私は梨花の味方だからね、何があっても」

私を見つめる美瑠の瞳は、真っ直ぐで少し滲んで光っていた。

「ごめんね……美瑠」

「もう謝らなくていいよ、梨花だってさ私の味方でいてくれるじゃん、おあいこだよ」

美瑠は人差し指を顎に当て口を尖らす。

「でーもさー……」

「……なに?」

「そりゃあ、気になるでしょ、私のかわいい梨花のハートを射止めた彼。どんな人なんだろって」

「ひえ? う、ああ、まあ、うん」

急に彼の顔が思い浮かんできて、また顔に熱を帯びるのが分かって、あわあわしながらグラスを持ってストローを吸っても、じゅるじゅると僅かに残ったジュースが音を立てる。

そっとすまし顔でグラスを置いて髪を耳に掛ける。

クスッと美瑠の笑い声。

「梨花が、そんなに照れたとこ初めて見た。うん。分かったよ。どれだけ梨花にとって大切な人かってこと、その彼がね」

「……え? そ、そうかな。あ、ありがとう、美瑠」

私は火照った顔を両手で仰ぐ。

そんな最中も両手で頬杖をついた美瑠の顔はニコニコしている。

「どういう状態なのか分からないからさ、何とも言いようがないけどさ、上手くいくといいなって思うし、梨花も青春してるんだなって、少し安心したよ。どんな形であれさ、幸せになって欲しいもん」

「……うん」


美瑠はパッと目と口を大きく開けて、両手を胸の前で合わせる。

「あっ、それって、もしかして押し花の君?」

「え? 何それ?」

「スマホケースに大切にしまってるパウチあるでしょ?」

「うん……」

「いつくらいからだったかな? 小、中学時代さよく見てたんだよね……図星でしょ?」

「あっ……」

思わず両手で口を覆っていた。

すごいな、そんなとこ見てたんだ。

じゃあ、薄々分かっていたのかもしれない。

「笑ってたり、切ないなって顔してさ梨花。もし私で力になれることがあるなら遠慮はなしだよ」

たしかに笑っていることはある、自分で気がつかなくても。

「ありがとう、ちゃんと話せる時が来たら教えるから、ごめんね」

大きく頷く美瑠。

「ふーん。なるほど。会えない距離で、しかも連絡は取れないんだ。でも名前くらいは知ってるんでしょ? 梨花のことだから調べてるか……」

「美瑠……」

私がじっと睨むと、

「あっ、ごめん。もう詮索はしないよ」

美瑠は両手を顔の前で合わせて拝んで見せる。

「ありがとうね、私のことたくさん考えてくれて想ってくれて」

「そんなのお互い様だよ。駿も梨花には感謝してるって言ってたよ、その私のことで、フォローのメッセージ、駿に送ってくれてるんでしょ?」

「だって、美瑠は素直にならないから、二人はお似合いだし、幸せでいて欲しいから」

「だ・か・ら、お互い様でしょ?」

「フフ、そっか、そうだね」

微笑む美瑠の顔を見ながら、やっぱり話してしまおうかと思う気持ちがよぎる。

二人の間に一切の隠し事はない。

私の秘密以外は……ね。


――そうだよ。

私もちゃんと名前で調べてみたよ。

秋倉真治《あきくら しんじ》って。

合気道やってて夕凪島じゃ有名だって話してたから。

SNSでもやってたらって。

でも、何も見つからなかったよ。

私は手を胸に当て、目を閉じて深く吸った息をスーッと吐き出す。

瞼を上げ、髪を耳に掛けて、佇まいを直す。

「ねえ、美瑠」

「ん? なあに?」

私の顔を見た美瑠は、ぴくっと眉を動かして背筋をシュッと伸ばした。

「今日さうちに泊まりに来ない?」

「ん? いいよ。久しぶりだね。あっ家来る? 花火しない? 梨花の家マンションだから出来ないじゃん、ちっちゃな庭だけどさ、どう?昔みたいに?」

ゆっくりと私は首を振る。

「どうしても話したいことが、私の部屋にあるから」

「あっ……」

私が少し首を傾げると、美瑠も同じように首を傾け目尻を下げた。

「うん。わかった。梨花の家にしよ」

「じゃあ、せっかくだから、夕食食べてこう。美瑠は何にする?」

「梨花。いい顔してたな。さっき」

さらりとした口調で髪をまとめる美瑠は、私の視線に気づくと、鼻にしわを寄せ、ニーッと笑って見せた。


高校に入ってからあまりお互いの家に泊まることは少なくなった。

それまでは夏休みとかはもちろん、週末も頻繁にどちらかの家に泊まっていた。

家に着くなり私たちは小さい頃からのお決まりの一緒にお風呂に入る。

それから部屋でテーブルを挟んで向かい合って座って、買い込んだおやつを食べながら過ごす。

お風呂でリラックスできたからか、それとも、もうどこかで覚悟が決まっていたからなのか。

私のこころは落ち着いていた。

ううん。

美瑠がそうさせてくれたんだと思う。

お菓子を食べ終わって、夜も更けこんで来たころ。

私はバッグの中からポーチを取り出して、その中にあるティッシュにくるんだ巻貝をテーブルの上に置く。

それから、スマホケースの中の押し花のパウチを隣に並べる。

美瑠は黙って私の行いを見つめている。

そして、私はベッドサイドに置いてある茶色のクマのぬいぐるみを手に取り胸に抱える。

ふさふさではなくなって、耳はよれたけど、黒い瞳はキョトンとしたまま、あの頃のように私を見つめてくれる。

ゆっくり腰を下ろして、部屋の照明を少し落とす。


美瑠に微笑みかけると、まるで、いいよっていうように両手を広げて見せた。

私はクマのぬいぐるみの頭を撫でて、美瑠の優しい眼差しを見つめた。

時を運ぶ針の音が私のこころと重なる。

「美瑠、あのね、私の好きな人は……」

私は10歳のあの夏の日に夕凪島で出会った彼のことを話し始める。

たった5日間の記憶。

それでも私にとってかけがえのない、何事にも代えられない大切な想い出。

大切な人との、初めて好きになった人との、そう初恋の人との物語。

ブランコのある高台の公園での出逢いから――

キラキラした海と高い空、深い緑の山々。

木や草や潮、祭の出店の匂い。

さざめく波の音、響き渡る蝉の合唱。

ラムネや醤油ソフトクリームの味。

二人きりで潜った透明な海、見上げた花火に夕暮れの金色の海。

虫を追いかけて、小石を池に投げ合って、彼の秘密基地のこと。

彼からたくさん貰った形のあるものないもの。

私が初めて差し出したたぶん愛のカタチ、元気がない彼のために焼いたクッキー。

風と一緒に駆け抜けたあの空間での出来事を事細かに。

そして――

二人の秘密の約束も。

美瑠は相槌を打ちながら、時に質問したりして、私の話を催促する。

絵本読んでとせがむ子供みたいに。

目をキラキラさせながら聞き入ってくれる美瑠の表情を見ながら、あたかも昨日の出来事のように、彼との想い出を話せる私。

口にしながらあの頃のトキメキが甦ってくるようで、鼓動が少し早くなって顔が紅潮しているの。

体の隅々に染み付いた想いが全身を駆け巡って、言葉に乗せるたび血流までも喜んでいるみたいで、私自身もワクワクしていた。

話し終えた時、美瑠の瞳は今にも溢れそうな涙で揺らいでいた。

私は美瑠に話せて良かったっと純粋に思えた。

そしてその良し悪しよりも、やっぱり彼のことが好き。

好きでいられている自分が少し誇らしく感じていた。


「梨花。話してくれてありがとう。嬉しかったよ、梨花の大切なこと聞かせてくれて」

溜まった涙をティッシュで拭いながら、ぐすん、ぐすんしている。

「ううん、美瑠には、やっぱり話しておいた方がいいって、やっと思えた。ごめんね」

「もうー。何で謝るの? 仮に梨花が今のこと話してくれなくても梨花に対する信頼は変わらないよ。口にしたらその想いが軽くなってしまうって気持ちもわかるし、それでも話してくれたんだから。だから彼との約束果たして、紹介して欲しいな……うー」

ティッシュで目を押さえて涙にむせぶ美瑠。

「うん、私も美瑠に会ってもらいたい」

「ううう……昨日の話じゃないけど、きっと彼……シンくんも今もずっと梨花のこと好きでいてくれてるよ」

「……そうかな」

今まで何度か聞いた言葉と変わらないのに、対象がシンくんになっただけでトクンと心臓が跳ねる。

「もう、梨花。わたしはずっと傍にいるんだよ。そんな梨花が好きになった相手でしょ? しかも話してくれた想い出。ぐすん。ぐすん……私にはわかるよ、彼はきっと梨花に一目惚れだったんだよ。間違いないから」

涙でぐちゃぐちゃな顔で自信満々の美瑠を見て思わず笑ってしまう。

けど、涙が伝染してきて――

目頭にティッシュを当てた。

「梨花のことだからさ、すぐ不安になると思うけど、私がついてるんだから」

美瑠はポンと胸を叩いて見せる。

「美瑠……」

私の頬にも涙が伝い出す。

「私たちは、親しい友じゃなくて心の友で心友でしょ? 梨花言ってたじゃん。私が初めて駿と大喧嘩して慰めてくれた日。私は忘れてないよ」

「うん、私だって」


不意に美瑠は立ち上がり私に手を差し出した。

その手を握って腰を上げると、美瑠は私に抱きついてきて頭を撫でる。

「梨花、ありがとう。初恋叶うよ、再会出来るよ」

包み込むような、お姉さんみたいな声音。

私も美瑠の背中に手を回す。

今日は二人とも同じシャンプーの匂い。

「美瑠、大好き」

「私も大好きだよ梨花、……あっ、私じゃなくて彼に言わないとね」

「もう……」

ふたりで肩を揺すって笑う

私は抱擁を解いて、真っ赤な瞳の美瑠を見つめる。

そして額を美瑠のおでこをくっつけた。

美瑠は私の胸に手を添える。

私も美瑠の胸に手を添える。

「久しぶりだね」

穏かな美瑠の声。

「中学の時以来かな」

辛い時、哀しい時、嬉しい時、小さい頃何かあると二人でこうしておでこをくっつけて、お互いの胸に手を当てた。

こうして頭と心に分け合おうっていつの頃からか、し始めた二人の儀式。

手のひらに美瑠の鼓動、額に体温、息遣い、匂い。

ずっと知っている染み付いているぬくもりたち。

「これからも、たまにしよう」

「うん、やっぱり落ち着く」

どちらからともなく笑い出す。

部屋の中が安心に満たされていく。

「梨花、明日さプール行こ」

「それ、嘘じゃないよね?」

私が美瑠のおでこを指でつつくと、ペロッと舌を出して口をすぼめた。

この日から美瑠は恋の世話を焼くことはなくなった。

そして何も聞かずに、変わらずに寄り添ってくれていた。

それは私も同じ。

かけがえのない、心友として――


この作品は梨花と美瑠の友情にスポットを当てつつ、梨花のシンくんに対する想いがどれだけ大切で梨花の心に秘めていたのかを書いてみました。

梨花にとって大切な想いを心友の美瑠に打ち明けるという場面を描いてみたくて。

色々な想いをこの作品にも込めました。

伝わっていたらうれしく思います。

お付き合い下さった皆様ありがとうございました。


お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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― 新着の感想 ―
美瑠ちゃんと梨花ちゃん。 二人ともいい子だな。 梨花ちゃんのこころの中には、シンくんが確かにいるんだよね。 だから航太くんの好意にも応じられないし…… 梨花ちゃんの初恋を口にしてしまったらって戸惑う気…
2026/01/26 14:56 退会済み
管理
梨花ちゃんが勇気を出して「初恋」を語る場面に胸がいっぱいになりました。 大切な想いを言葉にすることの怖さ、そしてそれを受け止めてくれる人がいることの尊さ…… 美瑠ちゃんの涙も、まっすぐな友情も、すべて…
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