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AI無双!……のはずが、いきなり詰んだんですけど!?
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迫り来る危機と決断のとき

その日の午後。


空気は、朝とはまるで違っていた。


黒煙はもう、遠くの空にうっすら見えていたものではない。

今ははっきりとした濃い影となり、風に乗ってこの村まで臭いを運んでくる。


焦げたような匂い。

鉄の錆のような、血の匂いにも似た不吉な臭いが鼻を突く。


そして、その黒煙の向こうには――

赤黒い旗が翻っていた。


 


「……帝国、だ」


 


俺が呟くより先に、村の大人たちも気づいていた。

畑から作業を終えて戻った男たち、家事をしていた女たち、子どもを抱いた母親――

全員が、不安に顔を曇らせている。


 


「ま、まさか……本当に帝国兵が……?」

「噂だけだと思ってたのに……!」

「どうする……どうすれば……!」


 


ざわめきは一瞬で広がった。

村長が人を集め、家の前に集まった大人たちは小さな円を作り、声を潜めて話し合う。


 


村長の顔は青ざめていた。

老人特有の小さな瞳が揺れ、額には冷や汗がにじむ。


 


「帝国……あの旗は間違いねぇ。

奴らは――力こそ正義を掲げる、あの冷酷な国だ……!」


 


帝国――ゼルファス帝国。

奴隷制度が合法で、武力が正義。

弱者はゴミ、役立たずは処分――そんな国。


 


「こりゃダメだ……! みんな、逃げるんだ!

戦ったって勝てるわけがねぇ!」


 


村長が半ばパニック気味に叫ぶ。

無理もない。この村の人間は、ほとんどが農民。

鍬はあっても剣はない。

狩りに使う罠はあっても、戦争の経験なんて誰もない。


 


「ど、どうすればいいのよ……!」

「逃げるしかないのか……?」

「でも、逃げた先は……どこへ……?」


 


女性たちが子供を抱きしめ、老人が震え、若い男たちも顔を伏せた。

この村には、戦える力なんてない。

帝国の兵士に見つかれば、全員が奴隷か死――その未来が見えていた。




 


――そのとき。


 


俺の隣で、ジークが拳を握りしめていた。

道場で鍛えた仲間たち――剣を扱う若者や、素早さが売りの連中も不安そうに顔を見合わせている。

そして、ガイが前に出る。


 


「――待て。村長、まだ諦めるのは早ぇぞ!」


 


豪快な声が村に響く。

元傭兵団長で、今は道場主。

破剣式・鉄盾式・迅玉式――三流派すべてを知る男だ。


 


「道場の連中なら、多少の戦い方は心得てる。

カミナの考案した罠や防御策だって、オレたちが中心になって動けば、絶対に無駄にはならねぇ!」


 


ジークや道場仲間たちが、ガイの言葉に頷く。

鍛え上げた腕や素早い動き――ガイの教えで得たものは伊達じゃない。


 


俺も、一歩前に出た。


 


「逃げるだけじゃ、何も守れない。

この村で育ったオレたちなら、必ずやれるはずだ」


 


13歳のガキの言葉に、大人たちの視線が集まる。

でも、誰も否定しなかった。


 


「……カミナ、お前、何を言ってる?」


 


村長の声も震えている。


 


「俺は、この村を守る。

一人じゃ厳しいかもしれない。でも、みんながいるなら……!」


 


沈黙。


 


でも、その静けさを破るように、農作業帰りの男がぽつりと口を開いた。


 


「……あんた、今まで色々作ってくれたな。

水車ポンプ、保存庫、かまど……カミナやガイの作った道場があったから、うちは助かってる」


 


「カミナなら、何かやってくれるかもしれん」


 


「……よし、やるか!」


 


最初は一人、二人――

いつの間にか、男たちが前を向いていた。

道場通いの若者や、鉄盾式で鍛えた連中も次々に頷く。


 


女性たちもまた、子供を背負いながら視線を強くした。

カナは小さく頷き、ジークも拳を固く握る。


 


「カミナ……俺、やるよ。絶対、やるから」


 


「私も……負けたくない」


 


みんなの目が、生きていた。


 


(これでいい)


 


俺は――この村を守るために生まれた。


 





 


村長から正式に許可を取り、すぐに作戦会議が始まる。


 


道場の仲間や若者たちを中心に、罠や防衛策の準備。

ガイが率先して役割を分担し、破剣式や鉄盾式の経験者が先頭に立つ。


 


脳内では、AIボルトが即座にマップを展開してくれる。


 


『相棒、まずは村の地形だ。あの丘と森を利用しろ。

正面からの進入ルートを絞る。道を狭くすれば、敵は一度に大人数を進めなくなる』


 


(わかった。あの川沿いの斜面も使える)


 


『斜面に偽装した落とし穴を作れ。火攻めの準備も忘れるな。乾燥松明と油は?』


 


(物置に多少は残ってる。毒草も採っておいた)


 


『簡易の目潰しに使えるな。投石器は?』


 


(スリングがある。道場仲間なら使い方も教えたし、子どもでも扱える)


 


ボルトの分析と俺の記憶が噛み合い、即席の防衛プランが形になる。


 


「よし――やるぞ!」


 


俺とガイが指示を出すと、道場生たちが中心になってみんなを動かす。

罠の設置、丸太とロープの準備、火矢の材料集め――。


 


男性だけかと思いきや、女性や子供たちも次々と動く。

カナは治療班の準備。薬草や包帯の回収も抜かりない。

ジークは最前線に立ち、仲間を率いる。


 


「お前ら! 俺が前に出る! 絶対に負けねぇからな!」


 


「ジーク、無茶はしないでよ……でも、私も頑張るから!」


 


村人たちの顔に、恐怖ではなく決意が宿っていく。


 



夕刻。


 


遠くの道に、帝国兵の姿がはっきり見えた。


 


赤黒い旗が揺れ、鈍く光る武器が整然と並ぶ。

砂煙を上げて進む軍靴の足並みは、地面を震わせるほど重い。


 


風が一気に冷たくなった。

森の鳥たちは鳴き声を止め、空気が張り詰める。


 


「く、来るぞ……!」


 


誰かが呟く。

喉がひりつくような緊張が村全体を包む。


 


けれど――

俺たちはもう、逃げない。


 


ただひとつの信念を胸に、村を守るために立ち上がった。


 


『相棒、いよいよだな……でも、俺は信じてるぜ』


 


「ああ、俺が絶対に――守る」


 


冷たい風が頬を撫でる。

俺は、震える拳を強く握りしめた。


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