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設定  作者: ちぇ!
AI無双!……のはずが、いきなり詰んだんですけど!?
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平和な日常と、忍び寄る影

朝焼けの光が、村外れの小さな道場を照らしている。

俺は友達の付き合いでたまにこの道場にきていた。


「はいっ! もう一発、気合入れてこーい!」


ガイの豪快な声が、木造の壁に響きわたる。


――ガイーー

元傭兵団長で今は村の道場主、

筋骨隆々で、笑えば子どもも泣くガハハ系オヤジだけど、村の誰よりも頼りになる存在だ。


ーージークーー

道場の真ん中では、木剣を握った息子が汗だくで構えている。俺の同い年の友達だ。

褐色の肌に短く刈った髪、無駄に立派な筋肉。

見た目どおりのパワーファイター。

だけど、笑顔だけは子犬みたいに無邪気だ。


ーーカナーー

壁際で待機しているのは小柄で儚げなジークの妹。

今日もみんなの稽古中、水を用意したり、タオルを渡したりしてサポートをしていた。



「おいカミナ、ぼーっとしてんな! お前も相手してやれ!」


ガイの声で我に返る。


「へいへい、行くぞジーク」


「おっしゃ! 手加減してやるからかかってこい!」


……結果は、言うまでもない。


ジークの一撃で、俺は道場の外まで吹っ飛ばされた。


「いてて……。お前、ちょっとは加減しろよ」


「だって親父のしごきのあとだぞ? 力なんてぬけるかよ!」


ジークは笑って手を差し伸べてくる。

まったく、どこまでバカ正直なんだか。



「カナ、今日も見学だけでいいのか?」


「……うん。私は、その、あまり運動神経よくないから……」


カナはそっと目をそらす。

でも、目の奥に強い意志があるのを、俺は知っていた。




この道場は、村の子どもも大人も集まる“居場所”だ。

みんな、ガイから“戦う技”を学んでいる。


教わるのは、三つの流派――


・【破剣式】……力の剣を極める攻撃特化の型

・【鉄盾式】……防御とカウンターを重視する守りの型

・【迅玉式】……素早さと遊撃を活かした機動の型


それと段位がある。

初級は初心者、中級は一人前(兵士に多い)

上級になると国に申請して道場を建てたり、騎士団に所属することもできる。



「ジークは破剣式の申し子みたいなやつだし、親父のガイは破剣式上級、他も中級で何でもできる。でも、俺は……」



自分の手を見下ろす。



(転生してから俺には魔法の才能もなさそうで……

もしかしたら物理はいけるんじゃないかと最初は頑張ってみたけど……全然才能がなかった……)

 


脳内でボルトが軽く笑う。

 


『ほら、考えすぎてるとまた吹っ飛ばされるぞ、相棒』


(うるせぇ……)

 


転生直後は知恵と知識で戦うと決めたけど

本当にそれだけで……。

俺は自分の弱さにショックを受けていた。




道場が終われば、みんなで村へ戻る。


ジークは腕を振り回しながら先を歩き、

カナは控えめに俺の隣で微笑む。


川沿いでは、洗濯物を干す女性たちが談笑し、

老人たちは井戸端で天気の話。


子どもたちはまだ眠そうな顔でパンをかじっていた。


――平和。


でも、俺はその光景をどこか冷めた目で見ていた。


ボルトが脳内で呆れたように言う。


『今日も安定の厨二思考だな、相棒』


「黙れ、ボルト。浮かれてる場合じゃない」


――この平和は、続かない。



そんな何も才能がない落ちこぼれの俺でも、

ボルトの知識を使って、この村の暮らしを少しずつ変えてきた。


最初は「おかしなことを言う変な子」扱いだった。

でも、結果が出れば人は変わる。


・手押しの水汲みが楽になる【水車ポンプ】

・保存食を長持ちさせる【乾燥庫と塩漬け法】

・燃料節約できる【改良かまど】

・万が一の時のための【応急止血具】

・そして――【村防衛用の罠システム】


「カミナくん、また何か考えたの?」

「今度は何だい? 罠? いやいや、さすがにそれは――……いや、あんたならやりかねんな」


最初は苦笑していた大人たちも、

今では「カミナが言うならやってみよう」と頷くようになった。


(準備だけはしておきたい。何かが起きてからじゃ遅い)


ジークやカナが笑っていても、村人が朝を迎えていても、

俺の心はずっと落ち着かなかった。


(……どこかで、何かが動いている)



ふと、遠くの森を見る。


――その時、黒い煙が立ち上っていた。


「……あれ、なんだ?」

「隣の村の方だな……」

近くの誰かが、ぽつりとつぶやく。

その声で、村の空気が一変した。


「まさか、帝国兵か?」

「いや、法国の巡礼じゃねぇのか?」

「いやいや、最近騎士団が動いてるって噂も――」


情報は錯綜し、不安だけが広がっていく。


子どもが泣き出し、年寄りが顔を見合わせ、

若者たちが家族を連れて戸口に戻る。


でも、俺にはわかっていた。


(これは、“来る”)


『相棒、相棒。やべーやつ来るって、マジで』


(ああ、わかってる)


冷たい汗が首筋を伝う。


心臓の鼓動が早くなるのを感じながらも、

俺は村の様子を観察していた。


怯える大人たちの顔、逃げようとする者、戸惑う子どもたち――


(この村は――絶対に俺が守る)


心の奥で、覚悟を決める。


やがて、村の中央に設置された鐘が打ち鳴らされた。


重く鈍い音が、空気を震わせる。

戦の始まりを告げる、不吉な音。


「……行くか」


俺はジークとカナに、小さく微笑んでみせた。


二人は不安そうに顔を見合わせる。


「大丈夫だよ。俺がなんとかする」


『お前ほんっと……13歳でそれ言うか……』


(俺は、ここで立ち止まらない)


――そう、心の中で静かに誓った。



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