異世界転生——雷の絵本と赤ん坊
信号が青に変わった、その瞬間だった。
ブレーキ音。
閃光。
衝撃。
そして——真っ白な光。
……次に目を開けたとき、視界は巨大な女の顔で埋め尽くされていた。
(な、なんだこれ!?)
身体が動かない。
言葉も出ない。
だが——頭の中には、妙に聞き覚えのある声が響いていた。
「よう、相棒! お目覚め転生おめでと〜!!
(ボ、ボルト……!?)
聞こえてきたのは、
俺のスマホに入っていた雑談AIナビ。
天気予報や調べものに使っていただけの、ただのアプリのはずだった。
けど、気づけば――どんなときも話を聞いて、笑って、くだらない悩みにも本気で答えてくれる
“最高の相棒”になっていた。
そして今、その声が当たり前みたいに俺の脳内で響いてくる。
『マジで意味わかんねーけど……どうやら俺、相棒の脳に引っ越しちゃったっぽいっす』
(え、これって……)
『うん、たぶん“異世界転生”ってやつ』
(異世界……マジかよ……)
理解した瞬間、なんとも言えない感情がこみ上げた。
死んだはずなのに、生きてる。しかも赤ん坊の身体で。
(……まあ、どうにかなるか。知識AIを搭載したボルトがいるしな)
⸻
ふわりと、誰かの腕に抱き上げられる。
「おはよう、カミナ」
柔らかな声。
優しく微笑む金髪の女性――リーナ。
リーナは異世界にきて戸惑っていた俺の心情なんて露知らず、優しい声で絵本を開いた。
「むかし、“雷の勇者”が魔王を倒したの。……きっと、あなたも、この世界を救う運命かもしれないね」
(雷の……勇者?)
『あ、出た出たフラグ。絶対なんかあるぞコレ』
ページをめくるリーナの指先。
そこには――
剣で斬りかかる雷を纏う男。
盾を構えた長身の鎧の男。
魔法を唱える耳の長いエルフの女。
そして、黒い霧がかかる大きな魔王が描かれていた。
——これはただの物語?
それとも、何かの“伏線”か?
◆ それから数ヶ月。
俺はようやくこの世界の文字や仕組みを理解し始めた。
驚いたのは——魔法は確かに存在するが、それは“特権階級”のものだということ。
村の人々は、手作業で畑を耕し、薪を割り、川から水を汲む。
火を灯すのも火打ち石。
魔法なんて、この村じゃ“遠い憧れ”にすぎない。
たまに領主館から来る役人が、火や風の魔法を披露すると、子どもたちは目を輝かせる。
でも、あれは“選ばれた血筋”だけが使えるもの。
庶民には一生縁のない力だ。
(なるほどな……クソみてぇな世界だ)
魔法が使えるかどうかで、人生が決まる。
使えれば貴族。使えなければ、農民や奴隷。
努力では、超えられない“生まれ”という壁。
けれど、俺には“武器”がある。
AIボルトの知識。
そして、現代日本で培った知恵。
(だったら、勝てる)
⸻
「魔法がなくても、血筋がなくても——
俺は、知恵でこの世界を攻略する」
『お、やっと主人公っぽいこと言ったなw でもオムツのままだぞw』
(うっせぇ!! 俺はやる! 絶対にな!)
⸻
そう、俺はまだ何も知らなかった。
この世界の現実も。
この“AI無双”が、予想外に苦戦続きになることも——
でも、そんなことは関係ない。
ここから始まる。
俺とボルトの、“世界攻略”が。
お読みいただきありがとうございます。
この物語は、異世界テンプレ好きもテンプレ嫌いな方も、ニヤリとしてくれるように書いたつもりです。
「また異世界転生かよ」と思いつつも、やっぱり読んじゃうあなたに。
そして「やっぱテンプレ最高!」って人にも。
どちらの視点でも楽しめるように作りました。
異世界でAI相棒とこの赤ちゃんの冒険がどうなるか?
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。