王都任務
「オシャル、オシャル!ついに来たよ!ついにっ!」
「朝から叫ぶなエムル、鼓膜が溶ける!」
エムルがギルドの掲示板前で、紙をブンブン振っていた。
その紙は――《王都直轄・Aランク準拠任務》の通達だった。
「推薦対象者、オシャル=リヴァンス、エムル=フェリル、ゼイド=クロス、エルシア=???」
「私だけ“???”なんだけど」
「まぁ……そりゃそうなるよな。元・暗殺者だし」
「ギルド登録も“仮メンバー”のままだしね……」
「じゃあ、今日から“仮”じゃなくするか。エルシア、“うちの仲間”になってくれ」
一瞬、空気が止まった。
エルシアは目を瞬かせた後、少しだけ頬を赤らめて――
「……正式な手続きは、キスでも必要かしら?」
「なんで極端なんだよ!!やめろエムルが睨んでる!」
「いや別に睨んでないし……ちょっと剣のグリップ強く握っただけだし……」
⸻
◆◇◆
翌日。王都へ向かう馬車の中。
エムルは興奮気味に窓から外を見ている。
「王都か~! ちゃんとした任務って感じだね!」
「でも王都の任務って、貴族絡みが多いって聞いたぞ」
ゼイドが珍しく口を挟む。
「それもそのはず。今回の依頼人、王国直属の情報管理官だ」
「また堅苦しそうな人が出てくるなあ……」
「名前は――『リューグ=クローディア』。……知ってるか?オシャル」
その名を聞いた瞬間、オシャルの背中がピクリと動いた。
「……いや、知らない。……でも、聞き覚えはある」
エルシアがオシャルをじっと見た。
(この反応……“知らない”とは思えないわね)
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王都に到着した四人は、中央行政庁の地下にある“任務室”へと通される。
中にいたのは、銀髪の長身青年。鋭い目つきと、軍服のような威厳をまとう男。
「よく来てくれた。私は王国管理局第七課、リューグ=クローディア」
その名に、オシャルの心がざわめく。
(……やっぱり、どこかで……)
「今回の任務は“王都外れの迷宮・ナイール遺跡”の調査。かつて“聖騎士団の剣”が封じられたとされる場所だ」
「聖騎士団……伝説級じゃないか」
ゼイドが珍しく目を細める。
「その遺跡に、未確認の“侵入痕”があった。加えて、内部で“魔力反応”が暴走している。調査と制圧が目的だ」
リューグの目がオシャルへと向く。
「そして、オシャル=リヴァンス。君にとっても関わり深い遺跡かもしれない」
「……どういう意味だ?」
リューグはしばらく沈黙したあと、静かに言った。
「君の父――《黒鉄の刃》と呼ばれた男が、最後に姿を消した場所でもある」
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空気が張りつめた。
仲間たちが驚く中、オシャルは静かに拳を握りしめる。
「……なら、行く理由は一つだ。俺が真実を見届ける」
「おお……なんか、急に“主人公”っぽい顔になってる……」
「エムル、空気読もうな」
「いやでも実際かっこよ――ごふっ!」
無言のオシャルの手刀がエムルの脳天に炸裂した。
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翌日。
オシャルたちは王都からナイール遺跡へと出発する。
だがその背後では、何者かが彼らの出発を見下ろしていた。
「……また“リヴァンス”の血が動き出すのか。面白くなってきたな」
フードに包まれた謎の人物――その手には、かつての“黒鉄の剣”の破片が握られていた。