表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/47

その名

「ぐぅぅぅぅぅう〜……ぐおぉぉぉぉ……」


「エムル、お前……寝ながら叫ぶな!こっちがうなされるわ!」


朝5時――

村の訓練場で始まったエムルの修行は、開始15分で“寝落ち”により中断された。


「いやぁ〜……昨日の疲れがさ〜、こう……夢で“森喰い”がパンになって襲ってきて……」


「どんな夢見てんだよ!てか訓練になってねぇ!!」


「オシャル先生が厳しすぎるんだよー!“魔力は小指から出せ”とか“魔力の呼吸”とか!」


「それ全部、お前が勝手にやってただけだろ!俺は何も言ってねぇ!」



そんなドタバタな修行をしていた中――

訓練場の裏手、物陰に見覚えのある影があった。


「……また来てたのか」


「気付くなんて、さすがね」


黒いフードを脱ぎ、現れたのは街で何度か対峙した“暗殺者”の少女。


細身の体に、涼しげな瞳。けれど、瞳の奥には鋭い覚悟があった。


「そろそろ名前、教えてくれてもいいか?」


沈黙が流れる。


しばらくして――


「……エルシア。元・暗殺組織《黒翳こくえい》所属、コードネーム“影喰い”」


「元、ってことは――」


「辞めたの。貴族の命令で人を殺すだけの人形、もううんざりだったから」


一瞬、風が吹き抜ける。


その風の中、エルシアの髪がさらりと揺れた。


「それで……今は何をしてる?」


「うーん……“居場所探し”?かな」


そのとき、エムルが木の影から顔を出す。


「オシャル〜!今度こそ“魔力玉”成功しそ――うわっ!誰かいる!? え!? かわいっ!?」


「ちょ、失礼だろ!」


「ご、ごめんなさい!あの、私、エムルです!オシャルの幼なじみで、ちょっとドジだけど魔力量だけはすごくて、それで……」


「自己紹介長い!」


「っていうか、もしかして“気になってた暗殺者さん”?」


「まぁ、そうね。気になられてたなら……悪い気はしないわ」


「ええっ!?それ、どういう意味で……!?」


「おい、会話が女子トークに持っていかれたぞ……」



三人の距離は、不思議な空気の中で少しずつ縮まっていった。


エルシアは剣術と魔術の複合型。

制御が下手なエムルにとって、実は理想的な魔導指導者だった。


「たとえば、魔力の収束は“怒り”じゃなく“意志”で支配するの。怒鳴っても魔法は言うことを聞かないわ」


「おぉ……それっぽい……!」


「てか、めちゃくちゃ教え方うまいなお前」


「私だって、昔は“教わる側”だったのよ」


エルシアの言葉には、どこか重みがあった。



その夜。

オシャルは一人、焚き火の前で剣を研いでいた。


そこにエルシアがやってくる。


「剣、好きなのね」


「……まぁな。剣は嘘をつかないから」


「人は嘘をつく。組織も、仲間も、家族も……」


「でも――信じてみたいんだよ。剣を通して、誰かの本気を」


エルシアは少しだけ、笑った。


「変なの。でも……そういうの、嫌いじゃない」


「エムルも言ってた。“オシャルはバカ真面目だけど、安心できる”ってな」


「へぇ、そんな風に言ってたの」


「でも、その後に“時々パンより信用できる”って言ってた」


「やっぱ信用されてねぇな!!」


二人の笑い声が、焚き火の中で優しく弾けた。



その頃、ギルド本部では――


「……ついに、“王都からの高難度任務”が動き出すか」


ゼイドが静かに地図を見つめる。


そこには、“王都直轄の迷宮”の名が記されていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ