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ただいま、そしてまたいつか


──世界を震わせた魔神との戦いから、一月。


〈星風の剣〉は英雄として称えられ、王都再建の式典やらパレードやらに引っ張りだこだった。

……が。


「いやーもう限界! 王様のスピーチ長すぎ! それに私、もうドレス無理! 」


「だから言ったろ、早く抜けようぜって」


「オシャルはいつも突然なんだよ!」


「うるせぇ、逃げてきたのお前もだろ!」


──そう。今、オシャルとエムルは。


懐かしき、故郷の村の前に立っていた。


「……ただいま、って感じだな」


「うん」


風に揺れる草。

小さな川のせせらぎ。

そして、遠くに見えるあの丘。


すべてが、あの頃のままだった。


「……なあエムル」


「なに?」


「覚えてるか? 火球」


「は? なによ唐突に」


「いやさ、俺があの頃必死に魔法練習してさ、火球出すって言ってたのに」


「結果、火じゃなくて煙がポフって出て爆笑されたやつ?」


「やめろぉおおおおおお!!!」


「ていうか覚えてるよ。私が最初に出した火球、村の畑を燃やしてさ……」


「そしたら村長が火球で応戦してきて、逆に山ごと燃えたんだっけ?」


「……魔法の才能、あの村長が一番だった説あるよね」


二人で笑った。

あの頃みたいに、なんでもないことが、なぜか楽しかった。





オシャルは丘に立っていた。

リグルスを地面に突き立て、腰を下ろす。


「結局……俺は、何かを成し遂げたのかな」


「成し遂げたじゃん」


エムルが隣に座る。


「ポッケルのメガネ型墓標の手配とか色々事後処理も頑張ってたじゃん」


「あいつの墓、メガネなのかよ……」


「それに、悪い教団をやっつけて、魔神を倒して……でも、そういうのよりさ」


「うん?」


「私が一番嬉しかったのは……あの時、オシャルが一緒に走ってくれたこと。泣き虫だったくせに、無茶苦茶で、でも、絶対にあきらめなかったこと」


エムルは照れたように笑った。


「そういうのが、ずっと誇らしかった」


沈黙。

けれど、嫌じゃない。



「あのさ、エムル」


「ん?」


「……ありがとな」


その言葉に、エムルはふっと目を細めた。


「ふふ……何言ってんの、今さら」


空を見上げた。


「ほら、星風が吹いてるよ」


「お、出たな名言モード。さすが俺たちのギルド名の由来」


「えっ!? 今知ったの!?」


「うそ、うそ!」


二人の笑い声が、夕空に溶けていった。



その夜


村の小さな広場。

焚き火を囲んで、子供たちが目を輝かせる。


「でねでね! 魔神ってどれくらい強かったの!?」


「ぜっっったいウソでしょ!? 剣で空割ったとか!!」


オシャルが胸を張る。


「事実だとも! ただし、空を割ったのは俺じゃなくてポッケルだけどな」


「ポッケルおじさんすげー!!」


「おじさん言うな、あいつ17歳だから!」


「おにーちゃんも何かしてよー! 剣技とか!」


「よっしゃ見せてやろう!」


……そして数分後。


「オシャルの剣がー! オシャルの剣が火球でーーー!!!」


「エムルお前ぇぇぇぇぇ!!!」


「わっざと当てたわけじゃないってば!!」


村に、爆笑と叫び声がこだました。




その夜、オシャルは再び丘の上に立った。


横にいるのは、変わらずエムル。

地平線の向こう、王都の光が見える。


「これからどうする?」


「さあな。けど……どこまでも行ける気がする」


オシャルはリグルスを肩に担ぎ、空を見上げる。


「星風の剣は、まだまだ止まらねえよ」


そして、満天の星が瞬いた。


──これは、かつて泣き虫だった少年が、

──本当に強くなった、そんな物語。


そしてまた、新たな旅が、始まろうとしていた——

ご愛読ありがとうございました!

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