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魔神戦線開幕

轟音と共に、魔神ヴァロルの咆哮が第二階層に響き渡った。


空間は捻じ曲がり、床は崩れ、瘴気の渦が剣士たちを飲み込もうと迫る。異形と化したヴァロルは、すでにかつての人間の姿をほとんど残していなかった。


「くっ……来るぞ!」


オシャルが叫び、リグルスを構える。その剣は今やただの鉄の塊にすぎないが、彼の魂は確かに燃えている。


「……やるしかない、か」


ゼイドが低く唸り、拳を握る。


「私はもう逃げない」


エルシアは瞳に静かな炎を宿し、双剣を抜いた。


「怖くても、やるしかないでしょ……!」


エムルが魔力を編み、術式を浮かび上がらせる。


星風の剣の4人だけで、今この場に立ち向かえるのは自分たちしかいなかった。



第一撃――それは“斬撃”ですらなかった。

ただ空気が震えただけで、オシャルたちは吹き飛ばされ、瓦礫の中へ叩きつけられた。


「ぐ……ぁっ!」


エムルが咳き込みながら結界を展開し、直撃を免れたが、ゼイドとエルシアは血を流しながらも立ち上がる。


「こいつ……次元が違う」


「攻撃が……見えない」


「でも、やるしかないだろ!」


オシャルが叫び、崩れる床を駆けてリグルスを一閃させる。斬撃は確かに届いた。しかし、傷は浅い。


「通らない……っ!」


返すように放たれた魔神の一撃が、オシャルを吹き飛ばす――その瞬間、別方向から炸裂音と共に閃光が走る。


「はぁっ!!」


爆風と共に、風を纏った影が降り立った。


「遅れてごめん! 間に合ってよかった!」


――ポッケル=グリムナイン、登場。


「ポッケル!」


「ここで死なれたら、ボクの出番的にも困るからね!」


冗談めかしながらも、その手には改良型の魔力放出式メガネが構えられている。仲間の合流に、オシャルたちの顔に再び希望が宿る。



「――霧よ、守れ! 霧障壁!」


さらに濃霧が戦場を覆い、黒い瘴気を打ち消すように渦を巻く。


「……遅くなったのですっ!」


銀髪の幼き剣士――ミルルが舞い降りる。


「この空間、異常なのです。ヴァロル=リーグス、あなたはもう“人”じゃないのです……!」


「おぉ……来たか、十剣の幼き霧剣士よ。だが貴様も、“ただの人間”にすぎん」


「人間は、諦めないのですっ!」


そして――王都の上空が輝き、降り注ぐような光が洞窟の天井を貫いた。


「皆、無事か?」


その声は凛としていた。


――アマテラス=ライドスター。


十剣一位、最強の男。その背には、伝説のハルモニクスが煌めいている。


その後ろには、ラッシュウェル=グランドとコジロウ=コーエンも続いている。


「まさか……共闘することになるとはな」


「戦う理由が変わっただけだ。今は“王都を守る”それだけだ」


「アマテラス……!」


オシャルが息を呑む。かつて敵として戦ったはずの男が、今や隣に立っている。


「オシャル=リヴァンス。君の闘志、確かに見た。だが、これはもう君たちの戦いではない」


アマテラスが一歩前に出る。


「これは、“人類の総力戦”だ」



最強の剣が抜かれた。


《ハルモニクス》――一振りで大地を裂くと言われる聖剣。その斬撃は空を割り、魔神ヴァロルの装甲をついに裂く。


「……通った!?」


続けざまに、ラッシュウェルの重撃が地を砕き、コジロウの神速の一閃が魔神の右腕を切断する。


さらに、ミルルの霧刃が部位を凍結、ゼイドとエルシアが連撃を叩き込み――


オシャルも、ただの剣リグルスを手に突き立てる。


「これが……俺たちの全力だ!!」


全員の力が魔神を貫き、ヴァロルはついに地に膝をつく。


「や、やった……!」



しかし。


「――人間如きが……」


黒い瘴気が溢れ出し、ヴァロルの身体が膨れ上がっていく。

再生ではない、“進化”だ。


「やはり……“完全に堕ちて”いるのか」


アマテラスの顔が歪む。


次の瞬間、爆発――!


アマテラスが吹き飛ばされ、ラッシュウェルの大剣が砕け、コジロウが沈む。

ミルルも血を吐き、霧障壁を展開しきれず崩れる。

ゼイドとエルシアは瓦礫に埋まり、ポッケルも負傷して動けない。


そして――最後に立っていたのは、ただ一人。


ボロボロのオシャル=リヴァンス。


「……みんな……ッ!」


魔神ヴァロルが、彼の前に立つ。


「見せろ。お前の“剣士”としての覚悟を……ガレンの息子よ」


震える手で、オシャルは剣を構える。


「……俺は……負けない。父のように、何も守れなかった過去は、もう繰り返さない……!」



遠く崩れた壁の向こう、燃える王都の空に一筋の光が差し込んでいた。


それは、まだ終わっていないという“証”だった。


「俺は……立ち向かう……! これが……俺の剣だ!!」

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