魔神城突入
魔神ヴァロルの居城――その姿はもはや城の形をしていなかった。
空に浮かぶ黒き岩の塊。
断続的に歪む重力の渦と、赤黒く燃える空間の裂け目。
そこに近づくだけで、空間そのものが悲鳴を上げていた。
「魔神の力が、空間の概念すら捻じ曲げている……」
ポッケルが眉をひそめる。
「……っ、息が……重い……」
エムルが顔をしかめる。気圧、重力、酸素。すべてが異常だった。
しかし、アマテラス=ライドスターは一歩も引かず、手にしたハルモニクスを抜く。
「覚悟を持て、剣士たちよ。ここから先は、“生きて帰る保証”のない地だ。……だが、恐れるな。我らが背負っているものは、ただの命以上に――重い」
そして、踏み出す。
黒い亀裂の中へと。
◆
次々と戦士たちが異空間“魔神城”へと入っていく。
その瞬間、空間がねじれ、地面が消え――各パーティは、別々の空間へと“隔離”された。
「くっ、これって……!」
「分断だ! 魔神の力で、我々は引き離された!」
オシャルたち〈星風の剣〉の4人――オシャル、エムル、ゼイド、エルシアは、見知らぬ大広間に転移させられていた。
そこには、無数の“石像”が並んでいた。
剣を構えた者。地に伏した者。振りかぶったまま固まっている者。
――いや、それは石像ではなかった。
「これ、剣士の……屍?」
ゼイドが目を伏せる。
「……これは、かつてヴァロルに挑み、敗れた剣士たちの“魂”だ」
アマテラスの声が、頭の中に直接響いた。
『魔神化とは、肉体だけの変化ではない。倒した剣士の魂と技を吸収し、概念ごと自らのものにする。奴はすでに、数百、いや、数千の剣士を“喰って”いる』
その言葉と同時に――
ギィィイイン……
石像たちが一斉に、剣を振り上げる音が鳴った。
そして、動き出した。
「来るぞ!!」
オシャルが叫ぶよりも早く、幾千の剣士の“魂”が襲いかかってきた!
◆
「えいやあああああああっ!!」
エムルが魔法を振るい、次々と敵をなぎ倒す。
ゼイドは無言のまま突撃し、連撃で敵を貫く。
エルシアはしなやかな体術でかわし、致命の一撃を刺す。
オシャルもリグルスを手に、ただの“鉄の剣”で立ち向かう。
数で言えば絶望的な差だった。だが、彼らは退かない。
「こんなところで足止めされてられない……! 俺たちの目的は、魔神を――!」
オシャルの叫びとともに、一行は一陣の風のように敵陣を突破し始める。
そのとき――
ギィィ……という異音とともに、ひときわ巨大な“剣士”が立ち上がった。
それは――
「……あれって、“伝説の剣士”グランバリオン!? 500年前に魔神と相討ちしたはずじゃ……」
「違う。ヴァロルが喰った“グランバリオンの魂”……!」
巨大な影が、地を揺らす剣を振り下ろす!
ドォン!!
エムルとゼイドがかろうじて受け止めたが、体ごと吹き飛ばされた。
「こいつ……一体だけで、十剣並み……!」
エルシアが青ざめる。
「でも、ここで止まるわけにはいかない!」
オシャルが叫び、単身で突撃――!
その瞬間、リグルスがわずかに“熱を帯びた”。
「今……俺の意志に、応えようとしてる?」
(お前が“剣”である必要なんてない。俺の相棒であってくれ――)
バシュウウッ!
リグルスの刀身が、一瞬だけ“白銀の光”を宿す!
「今だあああああ!!」
垂直の一太刀――!
まるで“神域の剣”のような威力を放ち、グランバリオンの魂を両断する!!
砕け散る巨体――そして、無数の亡霊たちも、その衝撃に飲み込まれるように消えていった。
◆
――静寂が訪れる。
オシャルたちは、無言で立ち尽くしていた。
ようやく、最初の階層を突破したのだ。
「次の層では……いよいよ、ヴァロルの本体に近づく」
オシャルが呟く。
彼の手の中で、リグルスが静かに“共鳴”していた。




