決戦前夜
夜明けが近づく――だが、王都の空はまだ赤黒く煙っていた。
その中心、旧騎士団詰所の広場には、数百人規模の戦力が集まりつつあった。各地のギルド、王国騎士団の残党、民兵、傭兵、そして――十剣たち。
すべては、魔神ヴァロルの討伐のために。
◆
「お前たちも来るとはな……!」
アマテラスが驚いた表情を見せた先には、二人の姿があった。
一人は――幼き剣姫、ミルル。かつてオシャルと手合わせを望んだ、十剣ランキング8位の少女。
「ふっふっふー! このミルルが来たからには、もう安心なのですっ! 魔神? ふんわり斬ってやるのです!」
彼女の背後に広がる霧が、淡い銀の光を放つ。
そしてもう一人。
「久しぶりだな、オシャル=リヴァンス」
静かに現れたのは、メガネの剣士――ポッケル=グリムナイン。
「眼鏡の奥、世界の歪みが見えたんだ。……これはもう、“戦うしかない”ってね」
軽く眼鏡を押し上げる仕草に、以前とは違う覚悟があった。
「……ありがとう。ミルル、ポッケル」
オシャルが深く頭を下げると、ミルルが照れたようにそっぽを向いた。
「し、仕方ないのですっ! オシャルの剣、ちょっとは気に入ってるから、なのです!」
エムルとエルシアが、やれやれと微笑む。
◆
そして夜。
いよいよ“出撃前夜”――出発の前に、剣士たちはそれぞれの思いを胸に静かな時間を過ごしていた。
オシャルは一人、焚き火の前で剣を見つめていた。
リグルス。
“概念を再構築する剣”――だが今は、ただの剣。
(それでいい。お前の力がなくても、俺は戦う。俺の剣は、もう“借り物”じゃない)
ふと、その横にアマテラスが現れる。
「……かつて、ヴァロル=リーグスは言った。『力は継ぐものではなく、喰らうものだ』と。剣の才がない者は、淘汰されるべきだと」
「そんなの、間違ってる」
オシャルの返答は静かだった。
「力があろうがなかろうが、剣を握る理由がある限り、人は剣士になれる。あんたと戦ったとき、そう思えたから」
アマテラスは少し目を細めた。
「……お前が“彼”の息子で良かったよ」
「……?」
「いや、なんでもない」
そのままアマテラスは空を見上げる。
「夜明けと同時に、魔神城へ進軍する。目標はただ一つ――ヴァロルの討伐。そして、王都を、世界を取り戻すことだ」
◆
夜が明けた。
“魔神城”――漆黒の空間が立ち昇る東方の地を目指して、数百の戦士たちが一斉に進軍を開始する。
剣士、魔術師、弓使い、格闘家、聖騎士。
様々な力が、ただ一つの敵へと向かう。
その先頭には、〈神託の騎士〉アマテラス=ライドスター。
そしてその隣には、〈星風の剣〉のギルドマスター、オシャル=リヴァンスの姿があった。
「――行こう。これは、終わらせるための戦いだ」
全軍、出撃。
かつてない規模の“最後の戦い”が、今始まる。




