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決戦前夜

夜明けが近づく――だが、王都の空はまだ赤黒く煙っていた。


その中心、旧騎士団詰所の広場には、数百人規模の戦力が集まりつつあった。各地のギルド、王国騎士団の残党、民兵、傭兵、そして――十剣たち。


すべては、魔神ヴァロルの討伐のために。



「お前たちも来るとはな……!」


アマテラスが驚いた表情を見せた先には、二人の姿があった。


一人は――幼き剣姫、ミルル。かつてオシャルと手合わせを望んだ、十剣ランキング8位の少女。


「ふっふっふー! このミルルが来たからには、もう安心なのですっ! 魔神? ふんわり斬ってやるのです!」


彼女の背後に広がる霧が、淡い銀の光を放つ。


そしてもう一人。


「久しぶりだな、オシャル=リヴァンス」


静かに現れたのは、メガネの剣士――ポッケル=グリムナイン。


「眼鏡の奥、世界の歪みが見えたんだ。……これはもう、“戦うしかない”ってね」


軽く眼鏡を押し上げる仕草に、以前とは違う覚悟があった。


「……ありがとう。ミルル、ポッケル」


オシャルが深く頭を下げると、ミルルが照れたようにそっぽを向いた。


「し、仕方ないのですっ! オシャルの剣、ちょっとは気に入ってるから、なのです!」


エムルとエルシアが、やれやれと微笑む。



そして夜。


いよいよ“出撃前夜”――出発の前に、剣士たちはそれぞれの思いを胸に静かな時間を過ごしていた。


オシャルは一人、焚き火の前で剣を見つめていた。


リグルス。

“概念を再構築する剣”――だが今は、ただの剣。


(それでいい。お前の力がなくても、俺は戦う。俺の剣は、もう“借り物”じゃない)


ふと、その横にアマテラスが現れる。


「……かつて、ヴァロル=リーグスは言った。『力は継ぐものではなく、喰らうものだ』と。剣の才がない者は、淘汰されるべきだと」


「そんなの、間違ってる」


オシャルの返答は静かだった。


「力があろうがなかろうが、剣を握る理由がある限り、人は剣士になれる。あんたと戦ったとき、そう思えたから」


アマテラスは少し目を細めた。


「……お前が“彼”の息子で良かったよ」


「……?」


「いや、なんでもない」


そのままアマテラスは空を見上げる。


「夜明けと同時に、魔神城へ進軍する。目標はただ一つ――ヴァロルの討伐。そして、王都を、世界を取り戻すことだ」



夜が明けた。


“魔神城”――漆黒の空間が立ち昇る東方の地を目指して、数百の戦士たちが一斉に進軍を開始する。


剣士、魔術師、弓使い、格闘家、聖騎士。

様々な力が、ただ一つの敵へと向かう。


その先頭には、〈神託の騎士〉アマテラス=ライドスター。

そしてその隣には、〈星風の剣〉のギルドマスター、オシャル=リヴァンスの姿があった。


「――行こう。これは、終わらせるための戦いだ」


全軍、出撃。


かつてない規模の“最後の戦い”が、今始まる。


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