表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/47

星空の誓い

焦げた王都の空に、風が吹いた。


――それは、剣士たちの再起を告げるかのような一陣の風だった。



王都の北部。かろうじて焼け残った旧騎士団詰所には、急ごしらえの作戦本部が築かれていた。


オシャルたち〈星風の剣〉、アマテラス率いる〈神託の騎士〉の生き残り、そして他ギルドからの支援者たちが次々と集まり始める。


「……魔神ってやつの正体はヴァロル=リーグス……“元・十剣第三位”だったってことか」


オシャルが、再建中の地図の前で呻く。


「しかも魔神化したってんなら……もはや“人の剣”じゃ届かないかもね」


エムルが不安げに呟いた。


「それでもやるしかない」


エルシアの声は強く、静かだった。


「私たちは、あの王都の惨状を見た。今、立ち上がらなきゃ、“次”がない」


ゼイドもまた、黙って頷く。


そこへ、足音を響かせて現れたのはアマテラス。


「……話がある。私の師であり、かつての友でもあったヴァロルのことだ」


剣士たちの視線が、自然と集まった。


「彼はかつて、我らの“師の中の師”……“剣聖イシュタリア”に師事していた。リグルスの力を恐れず、剣と心を一つにすることを説いていた人物だった」


だが、とアマテラスは険しい顔で続けた。


「――数年前、彼は“神々の座”なるものを口にするようになった。剣は人のためにあるのではなく、神意を伝える“器”に過ぎぬと」


「神々の座……?」


「……まさか、ヴァロルはそれを……“力で創り出そうとしてる”ってこと?」


エムルの疑問に、アマテラスは深く頷いた。


「奴は人の魂を“概念”として削り取り、魔力の礎に変える術を手に入れた。王都を破壊したのは、単なる暴走ではない。“世界を作り直す”ための準備だったんだ」


「世界を……!」


「だが、まだ間に合う。奴はまだ“完全なる魔神”ではない。今なら……“人の意志”で斬れるかもしれない」


その時――


「報告しますッ!」


戦災のなか駆けつけてきた若い偵察兵が飛び込んできた。


「東方の空、漆黒の柱が立ちました! それと同時に、空間に“歪み”が発生しています。これは……魔神の拠点が形成されつつあると思われます!」


「……動き出したか」


アマテラスが、静かに剣に手をかけた。


「我々も、動くときだ。これは“最終決戦”の準備ではない。これは――生き残るための、戦いだ」



その夜。


宿舎の片隅、星空を見上げながら、オシャルは一人佇んでいた。


「……魔神……か。リグルス。お前はどう思う?」


腰に下げた剣が、何も答えないのはいつも通りだった。だが、不思議と心は静かだった。


そこへ、エムルがやってくる。


「また星、見てるの?」


「いや……ただ、昔のことを思い出してた」


「昔?」


「……剣士になれないって、ずっと思ってた。才能なんてなかったし、師匠にも見放されて、何度も心が折れそうになった」


「……」


「でもさ、今、こうして“仲間”がいて、“守りたいもの”があって。たぶん、それだけで……俺はもう、剣士だって言っていいんじゃないかなって思えるんだ」


エムルは微笑んだ。


「そうだね。オシャルは、もう立派な剣士だよ。……世界で一番、大切な人のために剣を振るう、“最高”の剣士」


「……ありがとな」


二人の背後には、闇が迫っていた。


――だが、それでも希望の光はまだ、消えていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ