星空の誓い
焦げた王都の空に、風が吹いた。
――それは、剣士たちの再起を告げるかのような一陣の風だった。
◆
王都の北部。かろうじて焼け残った旧騎士団詰所には、急ごしらえの作戦本部が築かれていた。
オシャルたち〈星風の剣〉、アマテラス率いる〈神託の騎士〉の生き残り、そして他ギルドからの支援者たちが次々と集まり始める。
「……魔神ってやつの正体はヴァロル=リーグス……“元・十剣第三位”だったってことか」
オシャルが、再建中の地図の前で呻く。
「しかも魔神化したってんなら……もはや“人の剣”じゃ届かないかもね」
エムルが不安げに呟いた。
「それでもやるしかない」
エルシアの声は強く、静かだった。
「私たちは、あの王都の惨状を見た。今、立ち上がらなきゃ、“次”がない」
ゼイドもまた、黙って頷く。
そこへ、足音を響かせて現れたのはアマテラス。
「……話がある。私の師であり、かつての友でもあったヴァロルのことだ」
剣士たちの視線が、自然と集まった。
「彼はかつて、我らの“師の中の師”……“剣聖イシュタリア”に師事していた。リグルスの力を恐れず、剣と心を一つにすることを説いていた人物だった」
だが、とアマテラスは険しい顔で続けた。
「――数年前、彼は“神々の座”なるものを口にするようになった。剣は人のためにあるのではなく、神意を伝える“器”に過ぎぬと」
「神々の座……?」
「……まさか、ヴァロルはそれを……“力で創り出そうとしてる”ってこと?」
エムルの疑問に、アマテラスは深く頷いた。
「奴は人の魂を“概念”として削り取り、魔力の礎に変える術を手に入れた。王都を破壊したのは、単なる暴走ではない。“世界を作り直す”ための準備だったんだ」
「世界を……!」
「だが、まだ間に合う。奴はまだ“完全なる魔神”ではない。今なら……“人の意志”で斬れるかもしれない」
その時――
「報告しますッ!」
戦災のなか駆けつけてきた若い偵察兵が飛び込んできた。
「東方の空、漆黒の柱が立ちました! それと同時に、空間に“歪み”が発生しています。これは……魔神の拠点が形成されつつあると思われます!」
「……動き出したか」
アマテラスが、静かに剣に手をかけた。
「我々も、動くときだ。これは“最終決戦”の準備ではない。これは――生き残るための、戦いだ」
◆
その夜。
宿舎の片隅、星空を見上げながら、オシャルは一人佇んでいた。
「……魔神……か。リグルス。お前はどう思う?」
腰に下げた剣が、何も答えないのはいつも通りだった。だが、不思議と心は静かだった。
そこへ、エムルがやってくる。
「また星、見てるの?」
「いや……ただ、昔のことを思い出してた」
「昔?」
「……剣士になれないって、ずっと思ってた。才能なんてなかったし、師匠にも見放されて、何度も心が折れそうになった」
「……」
「でもさ、今、こうして“仲間”がいて、“守りたいもの”があって。たぶん、それだけで……俺はもう、剣士だって言っていいんじゃないかなって思えるんだ」
エムルは微笑んだ。
「そうだね。オシャルは、もう立派な剣士だよ。……世界で一番、大切な人のために剣を振るう、“最高”の剣士」
「……ありがとな」
二人の背後には、闇が迫っていた。
――だが、それでも希望の光はまだ、消えていなかった。




