洞窟にて剣と君と焼き魚
「……おい、なんでお前はこんなに堂々と魚を焼いてる?」
オシャルは剣を背負い、手に松明を持ちつつ、目の前のエムルに問いかけた。
彼女は洞窟内で豪快に焚き火を起こし、その上で小さな網を使い、さばいた魚を焼いている。
「だってお腹すいたんだもん!」
「ここ、魔物の巣の中だぞ!? せめて煙ぐらい気にしろよ!」
「だって洞窟に換気扇ないし」
「当然だよ!? 誰が設置すんだよ洞窟に換気扇!」
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冒険者ギルドからの最初の任務、それはこの“ガザルの洞窟”に巣食う魔物の討伐だった。
中級ランクとはいえ、実力のある剣士2〜3名の編成が基本。
オシャルはBランク昇格直後の任務としてこの仕事を請け負い、エムルとともに洞窟に入っていた。
「そろそろ魚焼けたよ〜、オシャルも食べる?」
「……まあ、腹ごしらえは大事だな」
(美味しいのが悔しい)
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魚を片手に、二人は奥へと進んでいく。
やがて、石壁の裂け目から一匹の魔物が現れた。
クロードトカゲ――全長2m、鋭い爪と分厚い鱗、暗闇に適応した目を持つ危険な亜種。
「……来たな」
オシャルは剣を抜く。リグルスがうっすらと青い剣気をまとい、空気が振動する。
「火球、いけるか?」
「任せて!さっき魚食べたから火力も上がってる!」
「それは関係ない!」
エムルの火球が先行してクロードトカゲを牽制し、オシャルは一気に間合いを詰めた。
鱗を弾くような剣の軌道――だが、一閃目では貫けない。
「くっ、硬い……!」
しかし、剣気の第二撃を放つ。
ギィィィィィン――ッ!
刃が火花を散らしながら鱗を砕き、次の一撃で――
「これで、終わりだッ!」
オシャルの剣が魔物の首筋をとらえ、クロードトカゲは地に崩れ落ちた。
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「お見事だな」
――と、その時。
洞窟の奥から、ひとりの少年が姿を現した。
銀髪に蒼い瞳、手には黒い片手剣。
整った顔立ちに無表情な口元。そして、見るからに只者じゃない気配。
「……あれ?誰?」
「君たちが今回の依頼者か。ギルドから派遣されて来た“査定者”だ」
「査定者?」
オシャルが身構えると、銀髪の少年は軽く頷いた。
「俺の名前はゼイド。“剣士ランキング第29位”、Aランク査定兼任者だ」
「Aランクぅ!? なんでそんな上位の人がこんなとこに!」
エムルの声が思わず裏返る。
ゼイドは淡々と話し続けた。
「昇格直後のBランクが、“十剣候補クラス”かもしれないという報告があってな。お前のことだ、オシャル」
「……!」
(ギルド、すでに俺を注視してる……?)
ゼイドは剣を腰に差し直すと、静かに言った。
「この後、もう一体だけ魔物が出る。Bランクでもギリギリの相手だ。……そいつをどう倒すか、見せてもらおうか」
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その後――
現れたのは、ゴーレム型魔物・岩甲獣バルガン。
鋼の身体に、火も雷も効きにくい。
しかし、オシャルは冷静に弱点を見極め――
「エムル、右足に火球撃て!」
「OK! “火球ッ・第二式!”」
爆炎で一瞬バランスを崩したバルガンに対し、オシャルは岩肌の継ぎ目に深く剣を突き立てる。
「――剣気・貫通!!」
青い光が爆発するように走り、バルガンの胸部を内部から破砕。
その巨体は、大きな音を立てて崩れ落ちた。
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戦いのあと。
ゼイドは無言でしばらくオシャルを見つめ、
そして一言だけ――
「……十分だ」
そう言い残し、彼は静かに洞窟を去っていった。
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「なんか、かっこよかったねー、ゼイドさん」
「うん。冷たそうに見えて、ちゃんと評価してくれる人だった」
「でもでも! オシャルの方がかっこよかったよ!」
「……へっ?」
「“剣気・貫通!”って言う時の声、いつもより2割増しでイケボだった!」
「それ感想がそこなの!? もっと技術的なとこ褒めてよ!!」
「じゃあ、“剣振るたびに前髪がフワッてなるとこ”も好き!」
「もはや剣と関係ないぃいい!!」