崩壊の王都
王都へ続く街道を走る馬車の中。
オシャルは額に冷や汗を浮かべ、ただ前方を見据えていた。
「……信じられない……これが……王都……?」
焦げた空気。立ち上る黒煙。
焼け焦げた建物と、すすけた瓦礫が広がる光景――それが、かつて栄華を誇った王都の“今”だった。
「……こんな、こんなのって……!」
エムルが声を震わせる。
エルシアは無言のまま、口を真一文字に結んでいた。
ゼイドが、ぼそりと呟いた。
「この気配……十剣のヴァロル。間違いない。奴の仕業だ」
その瞬間、馬車が止まった。
「誰だ!?」
エルシアが飛び出す。そこには――
「……無事だったか……お前たち」
「アマテラス……さん……!?」
剣士ランキング第一位にして、“最強”と謳われた男は、満身創痍の姿でそこにいた。
「オシャル……来てくれたか」
その声は、かつてのように堂々とはしていなかった。
傷つき、肩で息をしながら、それでも彼は剣を地面に突き立てていた。
「ヴァロルは……」
「……逃した。我々では止めきれなかった。ラッシュウェルも……コジロウも重傷だ。王都は……壊滅状態だ」
アマテラスは拳を握りしめた。
「力を……剣の力を誇った我々が……“魔神”となったあの男に、何もできなかった」
「……!」
オシャルの胸に、悔しさがこみあげる。
それでも、アマテラスは彼を見ると、静かに笑った。
「だが、私は……希望を見たんだ。オシャル。お前が“ただの剣”となったリグルスで戦った、あの姿――剣に頼らず、自分の一太刀で未来を切り開こうとする意志。それは、今の我々に足りなかったものだ」
その言葉に、オシャルの目がわずかに見開かれる。
「俺は、お前に託す。この世界を……いや、“人の剣”を、未来へ繋ぐために」
アマテラスは、傷だらけの《ハルモニクス》を鞘に収めると、ゆっくりと立ち上がった。
「十剣の座は、一時的に凍結されることになる。だが、それでも戦いは終わらない。魔神ヴァロルを止めるための、新たな戦いが始まる」
その時――瓦礫の向こうから、別の一団が現れる。
「生き残った住民を、すべて避難させました!」
「水と食料を確保しました!周辺のギルドにも連絡を!」
残された騎士団の面々、王都民、そして他ギルドたちが、わずかながら結束しようとしていた。
「みんな……立ち上がってる……」
エムルが呟く。
オシャルは、静かに剣を抜いた。
それは、どこにでもある市販の剣。
だが彼の手の中で、それは確かな“覚悟”を宿していた。
「俺たち、“星風の剣”はここに誓う。人のための剣を捨てず、魔神に抗い、王都を……世界を、取り戻す!」
「うん!」
「当然だよ!」
「……やるしか、ない」
仲間たちが背中を預けてくる。
そしてアマテラスも、かつて最強と呼ばれた男として、微笑む。
「ならば、私も剣を取ろう。再び、あの男の元弟子としてな」
焼け落ちた王都で――
一筋の風が吹いた。




