星屑が天照
王都・神託闘技場。
静まり返る場内。
オシャルとアマテラス=ライドスターが向かい合う。
神託の騎士団のギルドマスター、十剣ランキング1位。
その威圧感は、風すらも張り詰めさせるようだった。
「剣を構えろ、オシャル=リヴァンス」
「……これが俺の構えだよ」
オシャルは腰の《リグルス》を抜かない。
それは、ただの“鉄の剣”となった今でも、彼にとって大切な相棒だった。
「力を捨ててなお、立つか。…それがお前の“答え”か?」
「違う。……これが“俺の道”だ」
アマテラスが静かに《ハルモニクス》を抜く。
白銀の刀身が空に煌めき、周囲の空気が震えた。
「始め──!」
審判の声と同時に、アマテラスが踏み出す。
風も音も置き去りにして、ただ一閃。
(早い──!)
オシャルが紙一重でかわす。
アマテラスの剣は、風のようでいて雷のよう。
一撃一撃に明確な“殺意”がある。
「手加減はしない。お前を認めるためには、それが必要だからな」
剣が交錯する。
鉄の剣と神託の剣──明確な差があった。
斬られるたび、跳ね返されるたびに、オシャルの身体が傷つく。
だが──
「まだだッ……!」
歯を食いしばり、立ち上がる。
「……なぜそこまでして、立ち上がる」
アマテラスの言葉は静かだった。だがその瞳に、一瞬だけわずかな迷いが走る。
オシャルの過去が脳裏をよぎる。
──「お前には才能がない」
──「剣士なんてやめちまえよ」
──「剣に選ばれない者が、剣士になれるわけがない」
それでも彼は、毎日剣を振り続けた。
仲間に出会い、戦い、学び、そして今ここにいる。
(だから、俺は──)
「喰らえッッ!!」
オシャルが跳び込んだ。
構えは、最も基本的な、それでいて最も洗練された技。
──ただの垂直斬り。
無駄も虚飾もない。努力と鍛錬、心と魂を込めた一太刀。
「……っ!!」
アマテラスが即座に《ハルモニクス》を振るう。
だが──ほんの一瞬、手元が遅れた。
(何だ、この感覚……)
──刹那。
オシャルの剣が、アマテラスの右肩をかすめた。
歓声が、止んだ。
血がにじむ。
「……当てた、だと……?」
アマテラスが小さく呟いた。
「これは……ただの、斬撃……?」
「俺は“何もない”剣士だった。だけど、それでも前を向くって、決めたんだ」
──そして。
「勝負、ここまでだ」
アマテラスが再び構える。
次の瞬間、視界が白く染まった。
「奥義──《天破・浄裂》!!」
天空から雷光が舞い降りる。
直後、オシャルの身体が宙に弾け飛び、地に叩きつけられた。
──ドォン!!
会場が震える。
動けない。
意識が、遠のく。
「……俺、負けたのか……」
その言葉とともに、オシャルは意識を手放した。
⸻
数時間後──神託闘技場・特別室
静かな部屋に、オシャルはベッドで目を覚ました。
窓の外はもう夜だった。
「ようやく目を覚ましたか」
立っていたのは、アマテラス=ライドスター。
「アマテラス……さん……」
「お前の一太刀、確かに届いた。右肩の痺れがまだ残っているよ」
「……俺は、負けました」
「それでも、俺はお前を認める」
アマテラスは、静かに微笑んだ。
「“力”ではお前を圧倒した。だが、“心”は俺の剣より遥かに強かった」
彼は懐から一通の書状を差し出す。
「王都剣士連盟からの正式通知だ。《星風の剣》、ギルド昇格が認められた」
「え……」
「剣士ランキング上位との対等試合の実績。剣士としての精神力。それら全てが審査に値した」
「でも……俺たち、負けたのに……」
「剣士の強さとは、勝ち負けだけではない。剣を通じて示した“魂”が、全てだ」
オシャルの目に涙が浮かぶ。
「……ありがとう、ございます……!」
アマテラスが部屋を出ていく直前、立ち止まって言った。
「お前は、きっと俺の背を超える。だがその時は、また──俺の正面に立ってくれ」
「……はいっ!」
⸻
ギルド《星風の剣》は、王都の正式ギルドとして認められた。
新たな仲間、新たな使命、そして迫り来るさらなる強敵たち。
だが彼らは歩みを止めない。




