一太刀の誇り
神託闘技場。
満員の観客が見守る中、第一試合──《星風の剣》のエルシアと、《神託の騎士》のコジロウ=コーエンが対峙する。
──カン……ッ!!
細剣と名刀が交差し、甲高い金属音が空に弾けた。
エルシアの刃は、風のようにしなやかで速い。
一瞬の間に踏み込み、斬り上げ、翻り、突く。
だが──
「見切った」
コジロウの一閃。
彼の愛刀《武蔵丸》が、エルシアの細剣の軌道を正確に受け止めた。
「くっ……!」
(重い。間合いも、精神も、すべてが研ぎ澄まされてる)
「拙者の剣は“制す”剣──」
コジロウが静かに構えを変える。
逆手に構えた刀が、まるで空気を切り裂くように鋭く、だが美しく。
「──ただ一太刀で相手の流れを封じる。それが“武士道”の極意」
再び斬撃の応酬。
一つ一つが命を懸けた対話だった。
だが、明らかな差があった。
──練度。
エルシアの剣は、暗殺者として培った命のやりとり。
コジロウの剣は、“生かすために戦う者”としての覚悟と研磨の結晶。
(私の剣……通らない……)
コジロウの気迫が、じわじわとエルシアの内面を侵食する。
「すまぬな。だがこれが──“神託”の矜持」
コジロウの身体が、一閃の流星となって駆けた。
「──奥義、《斬月・真白》!」
一太刀。
月のように静かで、鋭く、そして不可避な一撃。
エルシアの細剣が宙に弾かれ、彼女の身体が地に倒れた。
──ドン。
「第一試合、勝者・コジロウ=コーエン!」
観客席が歓声に包まれる。
ミルルやエムルが悔しげに歯を食いしばる。
エルシアは倒れながらも、すがすがしい笑みを浮かべた。
(まだ──私たちは強くなれる)
⸻
第二試合──ゼイド vs ラッシュウェル
「でっけぇな……」
観客がどよめく。
ラッシュウェル=グランドの《ディーバ》は、まるで巨岩の塊。
その刃を肩に担ぎながら、彼は余裕の笑みを浮かべていた。
「始め!」
ゼイドは無言で駆けた。
踏み込み、切り上げ──
──ガァン!!
「うわ、まじかよ……!」
観客席から悲鳴が上がる。
ゼイドの剣が、まるで壁を叩いたかのように止められていた。
ラッシュウェルは大剣を軽く振り上げて防いでいたのだ。
「いい斬撃。でも“当たらなきゃ”意味ないぜ?」
(ちがう……あの剣は“守るため”の剣……!)
ラッシュウェルが踏み込むと、大地が揺れた。
その剛力の一撃が、ゼイドに迫る。
だが、ゼイドも怯まない。
「……!」
──シュッ。
細かく動く脚、重心の移動、最小限の動きで回避する。
(喰らったら終わりだ。けど、こいつの懐に入れさえすれば──!)
ゼイドが再び接近。
だがラッシュウェルの大剣が空気を断つ。
「奥義、《重震・砕嵐》!!」
刹那、ゼイドの足元が陥没し、体勢が崩れた。
──見えなかった。
大剣を地に叩きつけた衝撃が、地形を操るように足場を壊したのだ。
ゼイドが膝をついた瞬間──
ラッシュウェルの拳が、振るわれた。
「終わりだ、兄ちゃん!」
ゴォッ!!!
鉄塊のような拳がゼイドを吹き飛ばす。
──ドォン!!!
観客席が揺れるほどの衝撃。
ゼイドの体が壁に叩きつけられ、沈黙した。
「第二試合、勝者・ラッシュウェル=グランド!」
どよめきと、ため息と、歓声が入り混じる。
エムルが涙ぐみながら叫ぶ。
「ゼイドーッ!」
彼は立ち上がれなかったが、瞳はまだ、光を失っていなかった。
⸻
控え室──オシャル
二人の仲間が敗れた。
それでも、オシャルの手は震えなかった。
「──オシャル=リヴァンス、闘技場へ」
立ち上がる。
彼の背には、ただの剣と化したリグルス。
もう力はない。
それでも構わなかった。
(才能がなかった少年でも──)
(剣に選ばれなくても──)
(努力だけで、届くはずだ)
アマテラスが剣を携えて、中央に立っていた。
伝説の剣、その一振りで大地を裂くと謳われる神器。
「来たか」
オシャルもまた、まっすぐに前を見据える。
「俺のすべてで、あんたに挑む」




