それぞれの覚悟
王都での《神託の騎士》と《星風の剣》、最強ギルド同士の邂逅は、やがて一つの火花へと変わっていく。
リグルスの脅威を知っているアマテラス=ライドスターは改めて星風の剣が拠点としている宿舎へおもむき静かに告げた。
「十剣の座と、リグルスの封印。それらすべてをかけて、我ら《神託の騎士》は、お前たちに“試合”を申し込む」
その場の空気が一瞬、止まった。
「一対一の三番勝負。お互い三人ずつ──」
「勝者がすべてを得る。異論は?」
その瞳には一片の揺らぎもなかった。
剣士ランキング1位、アマテラス。
圧倒的な強さと気品を纏う男は、冷ややかな正義を口にした。
「リグルスを持つ剣士など、いずれ世界を壊す。……お前がそのつもりがなくても、な」
オシャルは言葉を返さなかった。
ただ静かにリグルスを見下ろす。今は何の力もない、ただの剣。
(けど──この剣は、俺に“何か”を残してくれた)
(それが証明できるなら、試合を受ける理由なんてそれだけで十分だ)
エルシアが一歩前に出た。
「……私が、第一戦をやらせて」
アマテラスの背後、コジロウ=コーエンが腕を組んで頷く。
「拙者の相手は、おぬしか。心得た」
そのやり取りに続くように、ゼイドが短く告げた。
「次は、俺がやる」
対するはラッシュウェル=グランド。
まるで鉄塊のような大剣を肩に担ぎながら、気さくな笑みを浮かべる。
「オーケー、無口な兄ちゃん。でも加減はしねえぜ?」
最後に、アマテラスとオシャルが向き合った。
両者とも言葉は要らなかった。
「試合は三日後。神託闘技場にて行われる」
「ルールは単純、決着は“戦闘不能”あるいは“降参”のみ」
ラッシュウェルがその場の空気を軽くほぐすように笑った。
「まあ、ようは殺す気でやれってこったな」
その言葉に、エムルがすかさず睨む。
「そう簡単に勝てると思わないでよ、力自慢さん!」
エムルの睨みも、ラッシュウェルには通じない。
ただ肩をすくめ、ディーバの切先で地面をコツンと叩いた。
「三日後、全員叩き潰してやる。なあ、アマテラス?」
アマテラスは頷くだけだった。
⸻
夜の王都・《星風の剣》の宿舎
三日後の試合に備え、それぞれが静かに準備を進めていた。
エルシアは一人、剣を振っていた。
夜の冷たい空気を裂く細剣の軌道は、かつて暗殺者だった頃の鋭さと、今のしなやかさを併せ持っていた。
(武士道……コジロウの剣はきっと、理を貫く剣だ)
(なら、私は──“意思”を通す剣で戦う)
彼女は決意していた。
過去に縛られたままでは、何も得られない。
ならば剣に、今の“自分”を込める。
⸻
ゼイドは静かに剣を研いでいた。
手入れされた剣は、どこまでも無骨で実直。
(ラッシュウェルのパワーは、正直に言って……相性が悪い)
(でも俺は、オシャルと戦って気づいた。……力は、気持ちがなければ届かない)
火花を飛ばすように、砥石を走らせる。
その目に映るのは、己が剣士として歩んできた道だった。
⸻
オシャルは、ただ静かにリグルスを手にしていた。
力なき古代魔装剣。
かつては世界を揺るがす力を持ちながら、今は何の術も持たない。
(でも──それでいい)
(俺は、もうあの時の自分じゃない)
かつて剣士の才能がないと嘲られ、血のにじむような訓練の中でしか道を見つけられなかった少年。
それでも諦めなかった。
(今は、仲間がいて、剣があって、戦う理由がある)
リグルスの柄をそっと握り、彼は心の中で呟いた。
「力を貸してくれ、じゃない。……お前は、俺の一部だ。だから、共に進もう」
その夜、彼は夢を見た。
昔の自分が、木剣を振るっていた。
泥まみれになりながら、何百回も振り下ろしていた。
その“たった一太刀”が、きっと今に繋がっていると信じて。
⸻
試合当日──神託闘技場
集まった観衆は数千。
王都でこれほどの注目を集める試合はそう多くない。
神託騎士団の誇る剣士たちと、流星のように現れた新鋭ギルド《星風の剣》。
誰もがその行方を注視していた。
円形闘技場の中央、エルシアとコジロウが向き合う。
コジロウは静かに刀を抜き、礼をする。
「勝負、所望いたす」
エルシアも同じように礼を返した。
「……こちらこそ、全力でいかせてもらう」
審判役が手を上げ、宣言する。
「第一試合──コジロウ=コーエン VS エルシア=リュミエール!」
「──始め!!」
斬撃が閃く。
刀と細剣。
武士道と暗殺術。
相反する二つの美学が、今ここに火花を散らす!




