最強ギルド降臨!
王都に、新たな噂が駆け巡っていた。
──《神託の騎士》が帰還した。
王国最強ギルドにして、王直属の超精鋭集団。
その名が示す通り、彼らの剣は“神の意志”すら代行する――とまで称される。
そして、彼らの前に立つ者は皆、同じ言葉を漏らす。
「“格”が違う」と。
*
王都南門、広場。
その日、《星風の剣》の面々は次なる依頼の報告のため、ギルド協会本部を訪れていた。
戦いの傷も癒え、活気を取り戻しつつある王都の空気に、エムルが軽やかな声をあげる。
「平和だねー、もう教団の残党も見かけないし!」
「油断するな。平和は一瞬、戦は続くものだ」
エルシアが冷静に釘を刺す。
だが、その時だった。
――ザァァァン。
空気が、変わった。
地を這うような気配とともに、広場の中心に影が降り立つ。
銀の鎧に包まれ、黒銀のマントをなびかせた青年。
凛とした佇まいは、まさに“覇王”。
一歩歩くだけで、大地が震えたように感じた。
彼の名は――
「アマテラス=ライドスター……!」
ゼイドが、無意識に名を口にしていた。
《十剣》第一位。
《神託の騎士》ギルドマスター。
王都最強の男。
腰に携える剣は、伝説の剣――《ハルモニクス》。
その一振りは、かつて大地を割り、国境線すら変えたと語られている。
続いて、その背後に現れる二人の影。
一人は、銀髪の長身男。
その肩に担がれているのは、岩のように巨大な剣。重量は優に5トンを超えるという。
「ふぁあ……やっぱり王都の空気は美味いな。……で、星風の剣とやらはどいつだ?」
ラッシュウェル=グランド。
《十剣》第四位。
超怪力の剣士。その剣**《ディーバ》**は、本来動かすだけでも三人がかりでなければ持ち上がらない。
もう一人は、武士のような佇まいの男。
黒髪を後ろで束ね、静かに腰の刀へと手を添えている。
「……主らか。風変わりな連中だな」
コジロウ=コーエン。
《十剣》第五位。
その名刀**《武蔵丸》**を以てして、彼は過去百戦無敗の剣士。刀一閃の妙技は、風のように速く、そして鋭い。
「オシャル、ヤバいよあれ。ランキング上位が三人も揃ってるって、もうこれは……」
「うん。でも……引けないよな」
オシャルが、前に出る。
目の前の三人を見上げながらも、視線を逸らさない。
その瞬間。
「貴様が……オシャル=リヴァンスか?」
アマテラスが、口を開いた。
その声音は低く、だが透き通っていて――王命のような威厳すら帯びていた。
「貴様が、古代魔装剣リグルスを振るった剣士。そして“教団”を潰したという」
「……ああ。俺たち《星風の剣》がやった」
静かな肯定。
その言葉に、ラッシュウェルが大笑いした。
「マジかよ! 教団ぶっ潰したって? なかなかやるじゃねえか!」
「口の利き方に気をつけろ、ラッシュウェル。これは外交だ」
コジロウが冷たく一言挟む。
その刹那――空気が一段と冷たくなった。
アマテラスの足元から、見えない“圧”が広がる。
「我ら《神託の騎士》は、王の命を受けて存在する。貴様らのような無名の草ギルドとは、根本が違う」
その瞳は静かで、だからこそ、恐ろしかった。
「いずれ……“リグルス”は、王国へ返してもらう」
静かに宣告を残し、アマテラスは背を向けた。
ラッシュウェルも、コジロウも、無言で従う。
去っていくその背中から、ただならぬ威圧が流れていた。
そして誰も、追いかけることはできなかった。
*
しばしの沈黙のあと。
「……なんなんだよ、あいつら……!」
エムルが拳を握りしめる。
「最強だよ……あれが。剣士として、ギルドとして、王都のてっぺんにいる人間だ」
オシャルが呟く。
震えはない。
だが、悔しさが滲んでいた。
その瞬間、彼の心に火がついた。
(絶対に、負けない……!)
そうだ、終わりじゃない。
《星風の剣》の旅は、まだ始まったばかり。
そして今、新たな目標が現れた。
王都最強ギルド――《神託の騎士》。
その高みに手を伸ばすために。
オシャルは、空を見上げた。
吹き抜ける風は、もう恐くなかった。




