決着!研鑽の剣閃
大地を裂く白闇槍が、オシャルの剣――古代魔装剣リグルスを抑え込み、すべてを封じた。
リグルスの力はもう発動しない。概念再構築も、融合の強化も――何も。
再び絶望が、空を覆う。
「終わりだ、少年。貴様らの“理想”は、我が“白闇”の前に消え去る」
アクセレイの声は、神のように響いた。滅四鬼人もまた息を吹き返し、静かに前線へ戻っていく。
オシャルは、剣を見た。
地に突き刺さったリグルス。その刃から、もはや力の気配はない。
だが――そのとき、ふと心の中に“ある思い”が浮かぶ。
(……違う。もし、この剣が“古代魔装剣”じゃなければ……)
リグルスの力とは、「概念を再構築すること」。
その力を最後に振るえるなら――“自身の武器の概念”すらも、塗り替えられる。
オシャルは、静かに呟いた。
「リグルス、お前は……“ただの剣”だ」
――その瞬間、世界が揺らいだ。
白闇槍の支配が剥がれる。
“古代魔装剣”という概念が消えたことで、白闇の無効化能力が効かなくなったのだ。
「……なに……っ!?」
アクセレイの目が見開かれる。仮面の下、感情がはっきりと揺れる。
その影響は滅四鬼人にも及んだ。
「……あれ? 俺……なんで戦ってるんだ?」
「なんなの……ここ、どこ? わたし、何してたの?」
「目的……命令……」
「“教団”……“封印”……誰のために……?」
彼らの“戦う意味”すら、概念と共に崩れ始めていた。
その一瞬の“隙”。
オシャルが吠える。
「今だ!!」
⸻
四鬼人への逆襲が始まった。
ゼイド=クロス vs ライ=ギグス
「……十剣をも潰してしまうお前の拳は硬すぎた。けどな……」
ゼイドは黙って構える。足元に深く体重を沈め、構えを低く――そして解き放つ。
「“心”は、そんなに硬くない」
《崩拳・黄昏》
ゼイドの拳が打ち抜いた瞬間、ライの肉体が奥から砕けたように崩れ、巨体が倒れる。
ミルル vs アル=ステグマ
「ずっと、キミの卑怯な手には付き合ってられないのです!」
霧の刃が舞う中、ミルルの剣が一筋の閃光となる。
《霧牙・千裂断》
アルの武具を全て無に帰す速攻の連斬。
「ぐ、ぐわああああああああっ!!」
アルの体が宙に浮き、バラバラに飛ばされた装備と共に地へと落ちる。
エルシア vs レイ=ゾッド
「くっ、使命、封印、頭がふらついてしかたない。だが目の前のお前が敵であるということは覚えているぞ!時間に縛られた剣士が俺に勝てるわけがない!」
レイが吠える。
だが、エルシアはその言葉を否定するように舞う。
「時間は流れていくもの。あなたはその流れに埋もれただけ」
《天閃葬舞》
連なる短剣の舞踏が、レイの動きを完全に断ち切る。剣ではなく、“流れ”で切る奥義。
「ぐ、ふ」
その剣戟を前にすでに致命傷をおっていたレイはその場で崩れ落ちる。
ランバダン vs リム=トークン
「私の魔法は全てなのです! 無限なのです!」
「それでも、届かないものがあるんだ」
ランバダンの剣が疾走する。
《光速剣・アストラルライン》
光の線を引く一太刀が、リムの詠唱ごと切り裂く。
「十剣さん! 私も手伝うよー! 超火球爆裂豪波球!」
エムルがランバダンの剣に合わせて特大の業火を放つ。
「にゃああああああああ!? ずるいのですううう!!」
リムは吹き飛ばされ、魔法陣が霧散した。
⸻
■剣を手放す者
残されたのは、アクセレイ=ゲオ。
ただ一人、立ち尽くすオシャル=リヴァンスの前に。
オシャルはリグルスを地面に突き立て、背を向けた。
「……俺はもう、剣に頼らない」
アクセレイが目を見開く。
「お前……その剣でしか戦えまい。お前の力は“概念の剣”――その力がなければ、ただの小僧!」
オシャルは歩き出す。静かに、ただ一直線に。
(俺は知っている。自分には、剣の才能なんてなかった。誰よりも才能がなく、誰よりも遅れてた)
――
子供の頃、何度も振っても形にならなかった木剣。
血を流しても成果が出ず、何百回も敗北した日々。
剣気もなく「剣士なんて向いてない」と笑われた、あの悔しさ。
それでも、振り続けた。
――これは、あの頃からずっと、練習してきた剣だ。
「剣なんて関係ない……」
アクセレイが構えた瞬間、オシャルが叫ぶ。
「俺の一太刀は――“努力の結晶”だあああああああああああ!!」
ただの、垂直の斬撃。
エネルギーも、概念も、魔力もない。
だがそれは、“すべての想い”を乗せた剣だった。
ズバアアアアアアッ!!
アクセレイの白銀の仮面が割れ、白闇槍が砕け、男の体が吹き飛ぶ。
「な……ぜだ……!何も持ち得ないこんな一撃が、なぜ……これほどまでに……」
崩れ落ちる仮面。
アクセレイ=ゲオは、崩壊する遺跡の足場に転がり――。
「私は……敗けるはずなど……がああああああああっ!!」
そのまま自身の槍によって引き起こした地割れに呑まれ、遺跡の深淵へと落ちていった。
静寂。
立ち尽くすオシャルの肩に、風が吹く。
誰かが言った。
「……勝った……のか?」
オシャルは答えない。ただ、拳を握りしめていた。
(剣に頼らず……俺は、自分の手で勝った)
その瞳には、剣ではない“新たな力”が宿っていた。




