真名解放
白闇槍によって封じられたリグルスの能力――。
滅四鬼人の猛攻を前に、オシャルたちはついに膝をついた。
「はぁ、はぁ……っ! クソ、また……何もできないのかよ!」
拳を握りしめ、オシャル=リヴァンスは震える。
仲間たちは倒れ、十剣は敗れ、滅四鬼人はなおも完璧な構えでこちらを見下ろしている。
「絶望したか? 小童ども」
仮面の男、アクセレイ=ゲオの声が響く。
「古代魔装剣、やはり神の傑作物だったな。だが白闇槍には通じん。ここで終わりだ」
──違う。まだ、終わらせない。
胸の奥で何かが囁く。
《問いかけます。あなたは、それでも“剣士”で在りたいと望みますか?》
脳内に直接響いた声に、オシャルは目を見開いた。
「おまえ……リグルス……?」
《私はリグルス。だが今の私は“名を失った剣”。あなたが呼ぶならば……》
オシャルはゆっくりと立ち上がる。
満身創痍の体を奮い立たせ、ひび割れた剣の柄を握り締める。
「行こう、リグルス。俺が呼ぶ……お前の“真名”を!」
雷鳴のように――光が奔る。
《了解。概念書き換え、起動――真名は、“リアルエディット”。》
──世界が、揺らいだ。
「なっ……!?」
レイ=ゾッドの目がわずかに見開かれた。
空間が塗り替えられていく。白と黒の狭間で、現実そのものが上書きされていく。
オシャルの足元に広がった光の陣から、一振りの剣が形作られた。
それは、ただの武器ではない。“概念そのもの”を編集する、理を越えた存在。
「おいレイ、あれ……ヤバいだろ」
ライ=ギグスの顔から笑みが消える。
「ふざけるな……なんだこの力……っ!」
アル=ステグマが振るった毒刃が、オシャルに届く前に霧散する。
「たった一撃で……こっちの魔術構成式、全部バグった!? ウソでしょっ!?」
リム=トークンの瞳が揺れる。
「これが……リグルスの“真の力”……!」
オシャルが踏み出すごとに、空気が書き換えられていく。
重力が変わり、時間の流れが歪み、因果すら塗り替わる。
「これで終わらせる……!」
オシャルの一太刀が、レイ=ゾッドの剣と交錯する――
ガギィィン!!
音が鳴ると同時に、世界の一部が反転する。
レイの時間操作の能力が無効化され、その剣速が初めて止まった。
「お前……まさか俺の《時流剣》を、無効化しただと……?」
「概念を書き換えた。“時間を操る剣”じゃなくて、“ただの鉄の棒”にな」
オシャルの剣が、閃光のように振り下ろされ――
ズバァアアァンッ!!
レイが後方へ弾き飛ばされ、岩を砕きながら地に沈む。
「レイが……!? まさか、そんなッ……!」
十秒。わずか十秒の“真名解放”。
その中で、滅四鬼人の頂点をも打ち破った。
「このまま、一気にいく……!」
だが――
「それ以上は、やらせんよ」
アクセレイの白闇槍が一閃。
リグルスの輝きが、またも闇に呑まれる。
《概念力、強制停止……リアルエディット、機能ロック》
「くそっ、また……!」
「なるほど。少し面白くなってきたな、だが根本の力が変わったわけではあるまい。あくまでアップデートの範疇だ」
アクセレイが仮面の奥で、笑った気がした。
「これでお前たちは“終章”だ。準備はいいか?」




