再構築の剣、白と闇に堕ちる
重たい空気が、戦場を支配していた。
十剣たちは地に伏し、仲間たちは瀕死――
勝ち目など、どこにもない。
「くっ……!」
倒れながらも、オシャルは手を伸ばした。
届かない。ミルルの小さな背中も、ゼイドの無言の怒気も、何ひとつ――
「……守れない、のか……」
そのときだった。
胸元に差した剣――古代魔装剣リグルスが、淡く輝き始めた。
《――問い:この戦場の“定義”とは?》
脳裏に、またあの“声”が響く。
《“今この場の概念”を、再構築しますか?》
「……ああ」
歯を食いしばりながら、オシャルは呟いた。
「全部、ひっくり返してやる……!」
《再構築、開始》
***
バシュ――ッ!!
光が爆発した。空気が弾けるように、世界が“変わった”。
「……な、なんだ、この……!」
レイ=ゾッドが眉をしかめる。
そして――
「……時が、止まらない?」
驚愕の声。
「僕の能力が……効かない?」
《概念再構築:時間干渉》――“この場における『時間の支配』という定義を否定”。
「……バカな、俺の時術は絶対だぞ……!」
レイが空間を捻るが、オシャルの剣がそれを真っ直ぐ斬り裂いた。
「行けぇぇぇッ!!」
オシャルが吠え、再び立ち上がった仲間たちと共に、攻勢に転じる。
***
他の戦場も、異変が起きていた。
「……霧が、俺の武具を壊してる……?」
アル=ステグマが驚愕する。
《概念再構築:装備優位》――“この場における『武器の支配力』を剥奪”。
「……私の霧は、どんな武器よりも濃いのです!」
ミルルが叫ぶと同時に、霧が百の武具を絡め取り、融解させていく。
「嘘だろ……っ、俺の構築武具が……!」
「にゃははは、ざまぁなのです!」
アルが初めて、顔を歪めて怯えた。
***
「……この静止空間も……破られた……?」
リム=トークンが、信じられないという顔をする。
ランバダンが再び、超音速で地を駆けた。
《概念再構築:速度制御》――“この場では『動的な存在』が支配的である”。
「――一発!」
ランバダンの拳が、リムの腹に叩き込まれる。
「がっ、はああああっ!?」
魔法の詠唱も、融合魔術も許さず、ランバダンの猛撃が続く。
「お前の小細工は、もう通じない!」
リムが咳き込みながら、膝をついた。
***
「おい、なんだこれ……!」
ライ=ギグスが呻いた。
筋肉の膨張が、暴走している。
《概念再構築:肉体強化》――“この場における『過剰な身体強化』は崩壊する”。
「ぐ、うっ、体が……! 制御が、できねぇっ!」
その瞬間、鋭い剣閃が彼の腹に突き刺さる。
「なめてんじゃないわよ。十剣を」
イバリエの剣が、深々とライの胸を貫いていた。
「……お前、女にやられるのが、癪だぜ……!」
ライが、膝をつく。
***
四鬼人、それぞれが、押されていた。
「……やっと……戦えるようになった、か」
オシャルが、息を切らしながらリグルスを構える。
「これが、俺たちの力だ!」
皆が、並び立つ。今、ようやく五人が肩を並べて――
そのとき。
「終わりだ」
空から、白銀の槍が突き刺さった。
ズドォォン……!!
地が裂け、リグルスの輝きが、一瞬で消える。
「な、に……!?」
オシャルが振り向いた。
空中に浮かぶのは、仮面の男――アクセレイ=ゲオ。
その手に握られたのは、古代魔装槍《白闇槍》。
「概念再構築――お前の剣の力だ。見事だった。だが」
仮面の奥の声が低く響く。
「“概念”とは、“真理”の模倣にすぎん。ならば、それを“否定”する槍が存在するのも、自然なことだ」
白と闇、両方の性質を持つ異形の魔装槍。
「《対理否定》」
白闇槍が脈動するたび、空間から“構築された概念”が消えていく。
「あ、ああ……っ!」
オシャルの剣が、再び重たくなり、足が鉛のように沈む。
「リグルスの光が……」
「戻ってきちゃった、のです……さっきまでの絶望が……」
ミルルが震える。
「ここから先は、“本物”の支配だ」
レイが立ち上がる。アルが武具を再び構築し、リムが魔法陣を空に描く。ライが再び筋肉を膨張させ、呻く。
「さて……第2ラウンドといこうか」
アクセレイの声と共に、再び戦場に――絶望が、迫り来る。




