滅四鬼人
空気が張り詰めていた。
ナイール遺跡の戦場に立ち並ぶ、異形の四人。
聖鍵の教団が誇る最強の守護者――“滅四鬼人”が、ついに全員揃った。
「ふむ。ようやく舞台が整ったか」
白銀の仮面を被ったアクセレイ=ゲオが、冷ややかに見下ろす。だが戦場には彼の姿はない。これはあくまで滅四鬼人による“試し”だ。
対峙するのは、オシャルたち「星風の剣」と、加勢に駆けつけた三人の“十剣”――
•第十位:イバリエ=アナムーン
•第九位:ランバダン=アップリケ
•第八位:ミルル
剣士ランキング上位の精鋭たちだ。ミルルはポッケルとの試合について軽く触れる。
「前の試合は寝坊しちゃったのです……。だから、今ここで頑張るのです!」
◆ ◆ ◆
「相手はレイ=ゾッド。奴には気をつけろ、時間を操る力がある」
イバリエがピリついた声で注意を促す。
オシャルは、ゼイド、エルシア、エムルと共にレイと対峙する。
黒髪に鋭い目を持つ剣士、レイ=ゾッド。その身体からは重く、冷たい圧が漂っていた。
「時間って……どういうこと……?」
「……俺も噂で聞いたことがある。戦えば嫌でも分かるか」
ゼイドが短く答えたその時、戦いが始まった。
「《時閃・断層》」
一歩、レイが踏み込む。
その瞬間、空間が歪むような音がして、ゼイドが膝をついた。
「ぐっ……!?」
エムルの攻撃も、オシャルの剣も、まるで空を切る。
「動きが……遅く……なってる?」
「違う。私たちが、動けてないんだ……」
エルシアが歯噛みしながら呟く。
レイの周囲には、一瞬で時の“ズレ”が生じていた。彼が動けば、敵は止まる――そんな戦場だった。
「面白い。実に遅い」
レイは冷たく笑いながら、一撃、また一撃とオシャルたちを叩き伏せていく。
「《時閃・刻絶》」
時間の流れが一層歪み、エムルの拳が届く前に、レイの蹴りが彼女の腹に炸裂した。
「……がはっ!」
「エムル!」
「ゼイド、エルシア、連携するぞ!」
オシャルが叫ぶが、それすらも“遅れて”響いた。
レイの圧倒的な時の支配が、彼ら四人をまったく寄せつけなかった。
◆ ◆ ◆
一方、別の戦場。
イバリエは、巨漢の格闘家・ライ=ギグスとぶつかっていた。
「お前、いい目をしてるなぁ!骨太な剣筋って感じだ!」
「うるさい。汗臭いわよ。殴るわよ」
イバリエは愛剣を構え、鋭い踏み込みから一閃。
だが、ライはそれを素手で受け止めた。
「ぎゃははっ! 斬ってこい! 俺の肉体は並の刃じゃ切れねぇぞ!」
「なら――切れる刃で叩き込むまでよ!」
イバリエの剣に青い閃光が走る。剣速を極限まで引き上げた連撃《雷刃・五連閃》。
ライは腕を交差して受け止めるが、彼の顔に珍しく苦悶の表情が浮かぶ。
「ちっ、剣圧が……やべぇな……! 面白れぇ!」
二人の攻防は火花を散らすように激しく、激突を繰り返していた。
◆ ◆ ◆
別の場所では、ミルルとアル=ステグマの激闘が展開されていた。
「貴女みたいな小娘が相手とは、馬鹿にされたものだな……」
アルは病的に痩せた身体に黒鎧を纏い、複数の武具を自在に投げてくる。
「ふふーん、そっちこそ油断してると霧に包まれるのです!」
ミルルが指を鳴らすと、霧が周囲を覆った。視界を奪い、足音すらかき消す。
そこから現れたのは、無数の幻影のような“剣閃”。
「《霧裂・乱舞》!」
アルの防御が一瞬遅れ、肩を裂かれる。
「なっ……視界を……!」
ミルルは霧の中からふわりと跳ね、笑みを浮かべる。
「わたし、今日は――全力なのです!」
◆ ◆ ◆
そして、最後の戦場。
リム=トークンとランバダン=アップリケ。
「魔術の嵐、喰らってみるぅ?」
リムが言うと、空間が歪み、無数の属性魔法が一斉に発動した。
「風、火、水、雷、闇、光……なんでもあるわよ~」
「――それでも!」
ランバダンは瞬時に加速し、魔術を一つひとつ回避しながら、すれ違いざまに斬撃を入れる。
「《天翔・光速斬》!」
その速さはまさに閃光。
だが、リムは魔法の盾で受け止め、くすりと笑う。
「わたし、全部の魔法が使えるって言ったでしょ~?」
激しい魔法と超スピードの攻防は、まるで神話の戦いのようだった。
◆ ◆ ◆
そして、遺跡全体に緊張が走る。
滅四鬼人の四人は、それぞれの戦場で“試して”いた。だが――
「……そろそろ」
レイが静かに呟く。
「我らも、本気でやるか」
その言葉は、時空を超えて他の三人にも伝わったかのように、同時に全員が“微笑んだ”。
この戦いは、まだ“遊び”だったのだ。
それが終わる――次は、“本当の悪夢”が始まる。




