援軍、風を裂いて
ナイール遺跡の奥。
崩れた石壁の隙間から、禍々しい瘴気が滲み出していた。
「……この先にいる」
オシャル=リヴァンスが言うと、空気がさらに重くなった。
「教団の幹部クラスだろうな」
ゼイド=クロスが静かに剣を抜く。
「何かヤバいのが、確実に待ってる……!」
エムルの手に魔力が灯る。エルシアも無言で頷いた。
踏み込もうとしたその時――空間が、震えた。
「来る!」
直後、黒いローブの影が四つ、現れる。
その中心に立つ、先程の白銀の仮面の男――アクセレイ=ゲオ。
彼の背後には、四つの気配が寄り添っていた。
無表情で時を裂くように佇む剣士。
腕を鳴らしながら笑う巨漢。
痩せた体に多数の武器を背負う男。
くるくると魔力を弄ぶ、幼い少女。
「……あれが、滅四鬼人」
オシャルの背に、冷たい汗が流れた。
「星風の剣。少し早いがここで踏み潰しておくか」
アクセレイの声が響いた瞬間――遺跡の天井が砕けた。
「退屈しない連中だね」
風のような速さで降り立つ一人の剣士。
細身の体に、鋭い視線を携えている。
「イバリエ=アナムーン……十位の十剣か!」
敵から驚きの声をあげる。
続けざまに、しなやかな身のこなしで青年が着地した。
「教団。世界を揺るがす排他者め」
ランバダン=アップリケ。そのランキングは九位、
余裕ある笑みは、場の空気を一変させる。
そして――。
「きましたのですぅ〜!」
霧とともに転がるように飛び出してきたのは、小柄な少女。
「ミルルなのです! 教団を倒しちゃうのです!」
「ふん、十剣が三人揃ったか……面白い」
アクセレイが仮面越しに声を落とす。
「オシャル、あとは任せてなのです! あたし達が道を開くのです!」
ミルルが手を広げると、辺りに霧が広がる。
同時に、ランバダンが駆け、イバリエが剣を抜いた。
一陣の風が、近くにいた黒衣の兵たちをなぎ倒す。
続くように、ミルルの霧が敵の視界を奪い、静かに数を減らしていく。
「……十剣って、やっぱり別格だな」
エルシアが呟いた。
「でも、あの仮面のやつと四人の気配……油断したら、一瞬でやられる」
オシャルは前を見据えたまま、剣を握る。
「援軍に任せきりってわけにはいかねぇだろ」
ゼイドが一歩前に出る。
「じゃあ、やるよ。星風の剣、出陣!」
エムルの掛け声とともに、四人も戦線に加わった。
騒然とした遺跡内。
剣と拳と魔法が交差し、煙と爆風が視界を包む。
その混沌の中、滅四鬼人の誰かが、静かに一歩を踏み出した――。




