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目醒める刃

――優勝から三日後。


「オシャル=リヴァンスの優勝、そして“古代魔装剣リグルス”の解放は、我らにとって避けがたい転機だ」


深く、静かな声が響いた。


地図にも載らぬ雪山の奥深く、禍々しき紋章が刻まれた祭壇の前。その前に立つのは、白銀の仮面をつけた男――アクセレイ=ゲオ。聖鍵の教団の長にして、世界の“秩序”を守ると自称する影の支配者である。


「時は来た。神代の遺産――魔装兵器を巡る動乱は、再び幕を開ける。我ら“聖鍵の教団”が、その全てを掌握する」


背後に立つ四人の影が、仮面の言葉に応じるように静かに動いた。


漆黒のローブを纏いし彼らは、“滅四鬼人めっしきじん”――アクセレイ直属の最強の戦力である。


一人目は、漆黒の双剣を腰に下げた青年。


その名はレイ=ゾッド。

時間を操る禁術を自在に操り、“刹那の覇剣”と恐れられる、滅四鬼人のリーダー的存在。彫りの深い顔立ちに冷徹な瞳が浮かび、血を流さぬ殺戮を好む無慈悲な剣士。


「……必要ならば、今すぐにでも。奴の時間ごと断ち切ってやろう」


冷ややかなその声には、焦燥も興奮もなかった。ただ機械のように、命令をこなす覚悟のみが宿っている。


二人目は、丸太のような腕を組み、豪快に笑う巨漢――ライ=ギグス。

身長二メートル半、剛力の権化。素手で巨岩を砕き、あらゆる刃を受け流す肉体を持つ男。


「リグルスってのがどれほどのもんか、興味湧いてきたぜ。オレの拳とどっちが硬ぇか、試してやろうじゃねぇか!」


言葉と共に拳を鳴らす音が、岩壁に反響する。


三人目は、痩躯に病的な雰囲気を漂わせる男――アル=ステグマ。

小さな棺のようなケースを背負い、常に薄く笑みを浮かべている。中には多様な武器と毒、罠、あらゆる戦術兵装が詰まっているという。


「ふふふ……ようやく出番かい? 久しぶりに、“命乞い”の声を聴きたくなってたところさ」


囁くように、だが明確に殺意の込もった声。


そして四人目は――


可憐な少女の姿をした魔導士、リム=トークン。

肩までの白髪と、澄んだ瞳。ローブの裾から見えるブーツは不思議と魔法紋で輝いていた。見た目は幼く、明るい声を響かせる。


「ふふーん、オシャルくんかあ。ポッケルを倒したってことは、わたしの好みのタイプかもね〜♪」


くるくると魔法陣を指先で描きながら、彼女はにっこりと笑う。しかしその背に浮かぶ魔力の奔流は、街一つを焼き払う規模であった。


滅四鬼人――それぞれが国家を滅ぼす力を持つ化け物たち。


その彼らが、オシャル=リヴァンスという一人の剣士に興味を示した。


「古代魔装剣リグルス。全ての概念を再構築する力……あれは、神代の枷をも断ち切る」


アクセレイの声が低く、しかし確信に満ちて続ける。


「リグルスが開かれたということは、“残りの魔装兵器”も目覚めつつある証。我らは動く。世界の均衡を守るために。いや……支配の礎を築くために、だ」




ロゼリア東部の街道を抜け、見渡す限り岩壁が連なる谷間の奥。


乾いた風が吹きすさぶ荒野を、四つの人影が馬車で進んでいた。


その中心に座るのは、少年――オシャル=リヴァンス。


「……これが、“ナイール遺跡”か」


馬車の上から顔を出したオシャルが、目前に広がる巨大な裂け目を見下ろす。


谷底に空いた、まるで地面が“誰かに食い破られた”ような異様な裂溝。古代の魔力の名残が、ぴりぴりと空気を震わせていた。


「なーんか、ただの遺跡って感じじゃないよねぇ……。空気が重たいっていうか、いや〜な感じ」


そう言いながら地面に飛び降りたのは、エムル。明朗快活な性格が取り柄だが、こういった空気には敏感だった。


「前に見た魔装剣の封印跡と……似ている」


小さく呟いたのは、エルシア。元暗殺者でありながら、今は「星風の剣」の仲間として共に戦っている。


そして、一番最後に馬車から降りたのは、背の高い寡黙な少年――ゼイド=クロス。


「気をつけろ。……この下に、何かがいる」


「……うん。俺も、同じ予感がする」


オシャルは鞘に収めたままの《リグルス》に手を添えた。


――リグルス。古代魔装剣にして、“概念を再構築する”という異質の力を持つ神代の遺産。


ポッケル=グリムナインとの死闘を経て、その一端は確かに目覚めた。

だが、オシャルにはわかっていた。リグルスの力も、この剣を巡る因縁も、まだほんの入口に過ぎない。


今回、ギルドから下された依頼は「ナイール遺跡の調査と警備」。


だがその“真の目的”を、オシャルたちはまだ知らない。


「――遺跡に入る前に、一つだけ確認しよう」


オシャルは仲間たちに振り返った。


「この遺跡で何があろうと、絶対に見失うな。俺たちの“目的”を。依頼でも名誉でもない、――仲間を守ること。それだけは忘れないように」


「ふふ、らしくないね。らしくないけど、ちょっとかっこよかった」


エムルがニッと笑う。ゼイドは無言で頷き、エルシアは静かに刃を抜いた。


そして、四人は足を踏み入れる――


古代と闇が眠る、“ナイール遺跡”へと。


その地下深くで、何かが蠢き始めていた。


そして同時刻。

遥か離れた山脈の上空に、黒衣の男女が現れていた。


「……始まったね、レイ」


「ああ。教団の意志に従い、“鍵”を閉ざすとしよう」


聖鍵の教団・滅四鬼人。

その冷たい視線が、すでに“次なる綻び”へと向いていた。


物語は、核心へと動き出す。



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