幼馴染は火球を放ちたい
「……つまり、おまえはこういうことか?」
オシャルは手に持った真っ黒なローブを指差した。
「“洗濯物を干そうとしたら風に飛ばされて、ローブが木に引っかかって、取ろうとして登ったら自分が落ちてきた結果、俺の顔面に直撃した”と?」
「…………そう!」
木の上から落下してきた少女――エムルは、服も髪もボッサボサ。ついでに顔に土もついている。
だが、本人はまるで気にしていない。逆に、ドヤ顔でサムズアップしていた。
「なんでそんな顔してるんだよ!どこに誇れる要素があった!?」
「いやあ、オシャルの顔面が思ったよりクッションだったから助かったよ~」
「俺の鼻は助かってないからな!?」
エムルはオシャルの幼馴染で、村の魔術使い見習いだ。
頭脳明晰、魔力も優秀――なのに、行動が全部“ドジ”で上書きされる不思議な少女である。
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「で、何してたの?その大剣……なんかすごいオーラ出てるけど」
「ああ、これか。昨日、山で拾ってな」
「山で!?」
「そう、山で」
「山で拾って、それが伝説の剣っぽくて、剣気が使えるようになって、岩を真っ二つに?」
「そうそう、って、理解早すぎない!?」
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オシャルは“リグルス”を軽く構えてみせた。
刀身にうっすら青い光が宿り、風がスッと空気を割るように流れる。
「昨日までの俺とは違う。剣気が、流れてるんだ。やっと、俺にも剣士としての道が開けたんだよ」
「オシャル……!」
エムルの目がウルウルと潤む。
「私……! 私、オシャルの剣が光るところ、ずっと見たかったんだよ……!」
「そうか……」
「でもさ……」
「ん?」
「なんかうらやましいから……一発だけ火球ぶつけていい?」
「なんでだよ!?感動の空気どこいった!?」
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エムルは本当に火球を構えはじめたので、オシャルは慌てて回避行動を取った。
「おい待て待て、そういうのは訓練場でやれ!焼くな!焼くな村を!」
「大丈夫大丈夫、小さめにしとくから!」
「おまえの“小さめ”はこの前、鶏小屋全焼したんだぞ!?」
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そんなドタバタの最中、村の方角から鐘の音が鳴った。
それは、**“魔物接近”**を知らせる合図。
「まさか……」
エムルの顔が引き締まる。
「音の間隔からして、5体以上。こっちに向かってきてる……!」
「エムル、行けるか?」
「もちろん。火球の大きさ、MAXでいい?」
「最初からそれにしろ!!」
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二人は村の外れへと走った。
そこには、すでに武具師ガランや村の若者たちが剣を手に立っていた。
「オシャル、来たか! ……だが、おまえは下がってろ。危険すぎる」
「大丈夫です、ガランさん」
そう言って、オシャルはゆっくりと剣を抜く。
「俺はもう、“剣気の使えない剣士”じゃありませんから」
刀身が光を帯びる。村人たちの視線が、一斉にオシャルへと注がれる。
「な、なにぃ……!? あのオシャルに、剣気が……!」
「信じられねぇ……あいつ、ついに目覚めたのか……」
その瞬間、森の奥から――魔物が現れた。
鋭い牙、複眼、四本脚の異形――グリードハウンド。
それが5体、同時に吠える。
「来るぞッ!」
オシャルが剣を構える。
横では、エムルが火球をチャージしていた。
「オシャル、左は任せた! 私は右に火球ぶっぱする!」
「了解、でも絶対に味方は燃やすなよ!!」
「任せて! ……お水、用意してるから!」
(コイツ、あまり気にせず火球ぶっ放つ気だ!)
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次の瞬間――
剣の閃光と、火球の轟音が、村の空に響き渡った。