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彼の過去、そして再戦!?

――ザァァ……


観客席から風の音が聞こえる気がした。


闘技場の中心に立つ二人の少年。


一人は、大剣を操る青年――オシャル=リヴァンス。

そしてもう一人は、闇を背負う寡黙な剣士――ゼイド=クロス。


いま、彼の意識は遠い過去へと沈んでいた。




ゼイド=クロス。

元は、名門アーヴェリス家の妾腹の子として生まれた。


正式な家族として認められず、正妻の子らからは「血の濁った存在」として忌み嫌われ、

家の隅で暮らし、剣の訓練すら許されず、台所の奥で木の剣を振っていた。


「……妾の子が、剣など握るな」


「奴隷の方がまだましだな」


耳に刺さるのは侮蔑の声ばかりだった。


唯一の味方だった母も、病に倒れ、彼が十歳の冬にこの世を去った。


居場所を失った彼を拾ったのは、辺境の名家――クロス家だった。


「ゼイド、お前の母は……私の妹だった」


そう語ったのは、クロス家の家長。

血の繋がりを辿った、遠縁の騎士だった。


「……ならば、私の名をやろう。今日からお前は――ゼイド=クロスだ」


そうして彼は、“家名”を得た。


だが、それは真の救いではなかった。


クロス家の中でも、彼は“外様”だった。

貴族の集いでも浮き、剣の訓練では実力だけが頼りだった。


彼は何も言わず、ただ黙々と剣を振るい続けた。


認められたかった。

家族というものを、初めて得たかった。


それでも――最後まで、“家族”という実感は得られなかった。


(ならば、俺は……)


剣で、全てを切り開くしかない。


その想いが、彼の剣を鋭く、そして強くした。


気づけば彼の背中には、“他人と距離を置く”という冷たい殻ができていた。


そして今、その殻を砕こうとしているのが――目の前の男。


「ゼイド。来い!」


宿命をまとう剣士――オシャル=リヴァンス。


同じギルドの仲間。手を差し伸べてくれた“友”。


ゼイドの剣が、迷いなく振るわれる。


「――はぁああっ!!」


重く鋭い一撃。だがそれを、オシャルの風が裂いた。


「《風牙・断空》!」


風の一閃がゼイドの剣を弾き――バキィン!


鋼鉄の刃が砕け、宙を舞った。


「っ……!」


観客がざわつく。


そしてゼイドの手から、剣がこぼれ落ちる。


(終わった、か……)


だが、不思議と胸にあったのは、悔しさではなかった。


オシャルが手を差し出す。


「ありがとう、ゼイド。おかげで、全力を出せた」


ゼイドは一瞬、驚いたような顔をして――そして、笑った。


「……悪くなかった」


「次は、負けないように鍛えとけよ」


「言うな。次は勝つ」


拳と拳を軽く合わせた瞬間――

彼の背中に、ようやく“仲間”の温かさが宿っていた。



試合終了の鐘が鳴り響く。


会場はオシャルの勝利に湧き上がる。


ゼイドは静かに観客席を後にしながら、空を見上げた。


(母さん。……俺、やっと……仲間ができたよ)


風が、彼の背をやさしく押した。



「さあ、いよいよ決勝戦です!」


司会の声が響く中、次のカードが発表された。


「決勝は……オシャル=リヴァンス 対――ポッケル=グリムナイン!!」


観客「えぇぇぇぇぇぇぇっ!? ミルルは!?」


「……ま、まさか……」


そして映し出されたのは、長身メガネの奇人――ポッケル。


「いや〜、ボク、メガネで世界を斬ってるからね〜。十剣? 強かったよ。でも、ボクのメガネには勝てなかったんだよね〜」


「メガネで十剣に勝てるはずないじゃん!?」


エムルが驚嘆する。


「……いや、勝ったんだよ、あいつが。あのミルルに」


オシャルは淡々と語るが、心の中には戸惑いがあった。


(……何が起きた?)


ポッケルは、ただの奇人ではなかった。


その背に宿る“気”は、本物の実力者のもの。


ミルルすら打ち破った狂気のメガネ剣士。


まさかの決勝戦は、“メガネ”との再戦となった。

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